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タイ|在庫差異の発生理由と対策

(日本語)

タイでの在庫管理における課題と対策について解説します。在庫差異の発生理由を理解し、適切な管理方法を学ぶことで、会計上のリスクを軽減し、効率的な経営を実現できます。

在庫差異の基本概念

在庫差異を理解するには、まず「フロー」と「ストック」という2つの視点を把握することが重要です。会計上、在庫はほとんどの場合「ストック」として捉えられますが、在庫差異の発生理由を特定するためには「フロー」の観点が不可欠です。

フローとストックの視点

フローの視点では、在庫の動きを時間軸で捉えます。受注管理、購買管理、生産管理、出荷管理などのプロセスを通じて、在庫の増減を追跡します。一方、ストックの視点は、特定の時点での在庫の状態を表します。

在庫差異を正確に把握するためには、フローの金額的な評価が重要です。しかし、これには適切な管理システムが必要となります。多くの企業では、この「フローの金額的な評価」が適切に行われていないことが、在庫差異の主な原因となっています。

在庫評価方法

タイにおける在庫評価方法には、主に以下のようなものがあります:

・個別法 ・先入先出法 ・移動平均法

これらの方法は、公正と認められる評価方法として認められています。ただし、評価方法を変更する際には歳入局長官の承認が必要となります。

また、タイでは継続的な在庫管理が求められており、ストックカードを用いて在庫の受払い管理を行うことが必要です。

在庫差異の発生理由

在庫差異が発生する主な理由は、数量と金額の管理の不備、およびイレギュラーな状況への対応不足にあります。

数量と金額の管理

多くのタイの日系企業では、品番と数量の管理はできていますが、金額の管理、特に出庫時の金額評価が適切に行われていないことが多いです。

在庫の評価金額は、出荷された商品と期末在庫にどのように按分するかが重要です。ERPシステムを導入していれば、この部分は比較的容易に管理できますが、システムを導入していても在庫差異が発生する場合は、在庫管理フローのイレギュラーな部分を探る必要があります。

イレギュラーな状況

在庫差異を引き起こすイレギュラーな状況には、以下のようなものがあります:

  • 所有権移転の有無の不明確さ
  • 工程別管理の不備

これらの状況に適切に対応するためには、詳細な業務フロー(業務マニュアル)の作成が不可欠です。特にタイ人スタッフに任せきりにしている場合、モノがなくなったら「出荷」と捉えるなど、誤った認識による処理が行われる可能性があります。

在庫差異による影響

在庫差異は、会計上および税務上で重大な影響を及ぼす可能性があります。

会計上の影響

在庫差異は最終的に売上原価や棚卸減耗損として会計上で費用計上されます。これにより、企業の利益に直接的な影響を与えることになります。

税務上の影響

タイでは、棚卸減耗損(および売上に紐づかない売上原価)は税務上、損金不算入となります。つまり、在庫差異によって生じた損失を税務上の費用として認識することができず、結果として課税所得が増加する可能性があります。

さらに、棚卸減耗損に関しては、VATの課税対象取引となる可能性があり注意が必要です。税務当局は、減耗した在庫をみなし売上として扱い、VAT課税を行う可能性があります。すなわち、正当な理由がない不足在庫は、それらが販売されたものとみなされ、VAT課税対象取引となります。これは企業にとって予期せぬ税負担となる可能性があります。

適切な在庫管理の方法

在庫差異を最小限に抑え、適切な在庫管理を行うためには、システムの導入と業務フローの整備が重要です。

システム導入の重要性

ERPシステムの導入は、在庫管理の効率化と正確性の向上に大きく寄与します。システムを通じて以下の点を管理することが可能になります:

  • リアルタイムの在庫状況の把握
  • 自動的な在庫評価計算 ・在庫移動のトラッキング
  • 警告システムによる異常検知

ただし、システム導入だけでは不十分で、適切な運用が伴わなければ効果を発揮しません。

業務フローの整備

適切な在庫管理のためには、以下のような業務フローの整備が必要です:

  • 明確な在庫受入
  • 払出プロセスの確立
  • 定期的な実地棚卸の実施
  • 在庫差異の即時調査と原因分析
  • 適切な権限設定と職務分離

これらの業務フローを文書化し、全従業員に周知徹底することが重要です。特にタイでは、言語や文化の違いによる誤解を避けるため、詳細なマニュアルの作成が推奨されます。

棚卸資産の期末評価と減耗損

棚卸資産の適切な評価と減耗損の取り扱いは、在庫管理において重要な要素です。

期末評価の方法

タイでは、期末棚卸資産は低価法により評価することが求められています。これは、原価と時価(正味売却価額)のいずれか低い価額で評価する方法です。

正味売却価額は以下の計算式で求められます: 正味売却価額 = 見積売価 - 見積追加製造原価 - 見積販売経費

低価法による評価損は、通常、有税処理により引当金計上されます。翌期首には洗替処理が行われます。

棚卸減耗損の取扱い

棚卸減耗損は、自然な摩耗、盗難、過去の数え間違い、売上の計上漏れなど、様々な原因で発生する可能性があります。タイの税務上、棚卸減耗損は損金不算入とされ、法人税課税の対象となります。

これらの取り扱いは、企業にとって予期せぬ税負担となる可能性があるため、適切な在庫管理と正確な会計処理が極めて重要となります。

まとめ

タイにおける在庫差異の発生理由と対策について解説しました。在庫差異は、フローとストックの視点の違い、不適切な金額管理、イレギュラーな状況への対応不足などから生じます。これらの差異は会計上および税務上で重大な影響を及ぼす可能性があるため、適切な管理が不可欠です。ERPシステムの導入や業務フローの整備、正確な期末評価と減耗損の処理を通じて、在庫差異のリスクを最小限に抑えることができます。

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