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タイ進出を検討する企業の皆様にとって、信頼できる現地パートナーの存在は成功の鍵です。この記事では、タイでのパートナーシップ戦略の立案から契約、関係維持までの重要ポイントを詳しく解説し、タイ企業との協業を成功に導くための実践的な知識を提供いたします。

はじめに
タイでの事業展開において、現地の商慣習や法規制への対応、あるいは販売チャネルの確保などを目的として、タイ企業とのパートナーシップを検討される企業様が多くいらっしゃいます。一から自社で全てを構築するよりも、既存のリソースやノウハウを持つ現地企業と連携することで、より効率的かつ迅速に事業を立ち上げ、拡大できる可能性があります。
タイでのパートナーシップの形態と特徴
タイにおけるパートナーシップには、いくつかの形態があります。それぞれの特徴を理解し、自社の事業戦略に合った形態を選択することが重要です。
最も一般的な形態として、合弁事業(ジョイントベンチャー)があります。これは、日系企業とタイ企業が共同で新たな会社を設立し、両社が出資して事業を運営するものです。合弁会社を設立する場合、非公開会社であれば取締役は1名以上必要であり、タイ非居住の外国人でも取締役となることが可能です。また、サイン権のある取締役は1名以上必要であり、サイン権の内容は柔軟に設定できます。ただし、タイ国内でサイン行為を含む就労行為を行う場合は、Bビザや労働許可(WP)が必要になります。合弁会社の財務会計については、公開会社以外はタイ独自の簡便的な会計基準であるTFRS for NPAEsを適用することが一般的です。法人所得税の計算方法は日本と同様の考え方で、会計上の収益から費用を差し引き、税務上の調整を加えた金額に税率を乗じて計算します。中小企業(SME)には累進課税が適用されます。VATは7%であり、課税事業者登録企業は課税取引の有無にかかわらず毎月の申告が必要です。
販売代理店契約は、タイの企業に自社製品の販売を委託する形態です。タイ国内での販路を短期間で確保できるメリットがあります。販売される物品にはVATが課税され、輸入が必要な場合は関税制度も考慮する必要があります。輸入品の関税分類は世界的に広く使用されているHSコードに基づいていますが、タイ関税局が他国と異なる分類をすることがあります。事前にHSコードや課税標準をタイ税関に確認する事前教示制度の活用が推奨されます。
製造委託(OEM/ODM)は、タイの企業に製品の製造を委託する形態です。自社で工場を持つことなく、現地の生産リソースを活用できます。製造委託先企業の品質管理体制(ISO認証など)や安全衛生管理体制(Safety Officer配置義務など)を確認することが重要です。製造された製品に欠陥があった場合の製造物責任法(PL法)についても理解しておく必要があります。委託先の従業員の最低賃金やその他の労働条件も考慮すべき点です。
これらの形態以外にも、技術提携契約やライセンス契約など、様々なパートナーシップの形態が存在します。
信頼できるパートナーを見つける方法
成功するパートナーシップには、信頼できる相手を見つけることが不可欠です。
効果的なパートナー探索チャネルとしては、既存の取引先、業界団体や商工会議所を通じた紹介、展示会での情報収集、コンサルティング会社や弁護士、会計士事務所などの専門家からの紹介などが挙げられます。まずは相手と取引を始めてみて、信用できる会社か見極めることも必要です。お互いに信頼関係を構築できれば次の段階にもスムーズに進みやすくなります。
パートナー候補を評価する際には、財務状況、コンプライアンス体制、過去の実績、組織文化、そしてキーパーソンの信頼性などが重要な基準となります。特に財務面では、過去の財務諸表や税務申告状況を確認し、企業の安定性や健全性を判断する必要があります。コンプライアンス面では、個人情報保護への対応状況なども確認すべき項目の一つです。
パートナー選定における信用調査の重要性
パートナー候補の選定において、信用調査は非常に重要です。これは、候補企業の事業内容、財務状況、法務リスク、労務状況、税務リスクなどを調査し、潜在的な問題を洗い出すプロセスです。
信用調査の具体的な項目としては、財務諸表の分析、契約書や登記簿の確認、訴訟や紛争の有無、労働条件や就業規則の確認、税務申告の適正性などが含まれます。特にタイの現地企業との契約書管理や、税務申告の正確性は専門的な視点での確認が求められます。
これらの調査は専門的な知識を要するため、弁護士や公認会計士などの外部専門家に依頼することが一般的です。十分な信用調査を行うことで、パートナーシップ締結後の予期せぬリスクを低減できます。
契約交渉と契約書作成のポイント
パートナーとの間で契約を締結する際は、将来のトラブルを避けるために、契約内容を明確に定める必要があります。
契約交渉時の重要なポイントの一つは、役割分担と責任範囲の明確化です。各パートナーがどのような業務を担当し、どの範囲で責任を負うのかを具体的に定義します。特に製造委託契約では、製品の品質基準や製造物責任(PL法)に関する責任分界点を明確にすることが重要です。
また、収益分配や費用の負担方法も重要な条項です。合弁事業であれば、利益の分配方法(配当など)や、役員報酬、経費負担などを詳細に定めます。
紛争解決に関する条項も必ず盛り込むべきです。契約違反や意見の相違が生じた場合の対応手続、準拠法、管轄裁判所などを定めておきます。不正行為(横領など)が発生した場合の懲戒解雇手続や、債権回収の方法についても、タイの法制度を踏まえて検討しておく必要があります。
その他、契約期間、契約の更新または終了条件、秘密保持条項、競業避止義務なども、事業内容に合わせて適切に設定する必要があります。
タイ企業との協業における文化的背景の理解
タイ企業とのパートナーシップを円滑に進めるためには、文化的背景の違いを理解し、適切なコミュニケーションを図ることが非常に重要です。
タイでは、「足るを知る」という仏教思想が根付いており、仕事においてもワークライフバランスを重視する傾向があります。また、年功序列を重視する文化や、上司との関係性を気にする傾向も見られます。これにより、日本人側の期待するスピード感や、積極的な発言、主体的な行動などが得られないと感じる場面があるかもしれません。
円滑なコミュニケーションを図るためには、一方的な指示ではなく、タイ人スタッフの意見を聞きながら共に考える姿勢が効果的です。腹を割って話し合い、組織の一体感を醸成する努力も重要です。日本人側がタイの組織の一員として、良い関係性構築に貢献するという視点を持つことが推奨されます。また、多国籍なチームでの協業では、共通の業務言語として英語を使用したり、多様性(ジェンダーや国籍など)を尊重するインクルーシブな文化を構築する取り組みも有効です。
パートナーシップ締結後の関係維持と見直し
パートナーシップは、契約締結がゴールではなく、そこからが始まりです。良好な関係を維持し、変化する事業環境に合わせて定期的に見直しを行うことが長期的な成功につながります。
日々のコミュニケーションを密にし、お互いのビジネス状況や課題を共有することで、問題の早期発見や解決につながります。予期せぬトラブルが発生した場合には、契約書で定めた紛争解決条項に基づき対応を検討します。例えば、従業員の不正行為が発覚した場合は、証拠をしっかりと保管し、懲戒解雇手続を進めるかを判断する必要があります。
また、事業の進捗状況や市場環境の変化に応じて、契約内容を見直す必要が生じることもあります。特に合弁事業では、株式譲渡や吸収合併といった手続によるパートナーシップの再編や解消の可能性も視野に入れておく必要があります。定期的な経営会議や戦略会議を通じて、パートナーシップの有効性を評価し、必要に応じて契約内容や運営体制を修正していくことが望ましいです。
タイ パートナーシップ戦略に関するよくあるご質問(FAQ)
Q:どうすれば信頼できるタイのパートナー企業を見つけられるのか?
信頼できるパートナーを見つけるには、まず自社の事業目的とパートナーに求める役割を明確にすることが大切です。その上で、既存取引先、業界団体や商工会議所、展示会、あるいは現地のコンサルティング会社や法律事務所、会計事務所といった専門家からの紹介を通じて候補企業を探すことが効果的です。候補企業が見つかったら、財務状況、コンプライアンス体制、過去の実績、そして組織文化などを評価基準として、信用調査をしっかりと実施することが、信頼性を判断する上で非常に重要になります。
Q:合弁契約や代理店契約で気をつけるべき条項は何か?
合弁契約や代理店契約では、特に役割分担と責任範囲、収益や費用の分配方法、契約期間、契約の更新・終了条件、秘密保持義務、そして紛争が発生した場合の解決手続に関する条項に注意が必要です。合弁契約の場合は、取締役の権限やサイン権の設定、利益の分配方法(配当など)も重要な検討事項です。製造委託契約では、品質基準や製造物責任に関する法律(PL法)に関する責任分界点も明確にしておく必要があります。
Q:タイ企業とのコミュニケーションで文化的なギャップをどう埋めるか?
タイ企業とのコミュニケーションにおいては、タイの文化や価値観、特にワークライフバランスを重視する傾向や年功序列の考え方、そして上司との関係性を気にする姿勢などを理解することが重要です。一方的な指示ではなく、タイ人スタッフと共に考え、彼らの意見を聞く姿勢を持つことが円滑な関係構築につながります。多様性を尊重し、オープンなコミュニケーションを心がけ、日本人側が積極的に関係構築に貢献する視点を持つことも大切です。
Q:パートナー候補の信用調査は何をすべきか?
パートナー候補の信用調査では、主に財務、法務、労務、税務、そしてコンプライアンスの各側面を調査します。具体的には、財務諸表の内容分析、契約書や登記簿、社内規程の確認、過去の訴訟や紛争の有無、労働契約や就業規則、税務申告の内容と適正性の確認、そして個人情報保護などの法令順守状況の確認などが含まれます。これらの専門的な調査は、現地の弁護士や公認会計士に依頼することが一般的です。
Q:パートナーとの間でトラブルが起きた場合、どう解決すれば良いか?
パートナーとの間でトラブルが発生した場合は、まず契約書に定められた紛争解決条項を確認し、それに従って対応を進めます。誠実な対話による解決を目指しつつも、状況によっては内容証明郵便による督促や、訴訟による解決も視野に入れる必要があります。不正行為が原因の場合は、証拠をしっかりと収集・保管した上で、懲戒解雇などの対応を検討します。労働問題に起因するトラブルの場合は、労働裁判となるリスクも考慮し、専門家と連携して慎重に対応する必要があります。
まとめ
タイでのパートナーシップ成功には、適切な形態の選択、信頼できるパートナーの探索と評価、徹底した信用調査、明確な契約締結、そして文化的な理解に基づく円滑なコミュニケーションが不可欠です。良好な関係を維持し、定期的な見直しを行うことが、変化する環境下での事業継続・発展につながります。
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