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タイ|退職給付引当金の導入と実務上の留意点

(日本語)

タイの労働法改正に伴う退職給付引当金の計上が求められています。計算方法や会計・税務上の取り扱い、実務上の注意点について詳しく解説します。タイでの事業運営に役立つ情報を提供します。

タイの退職金制度の概要

定年退職については就業規則で定められている会社もあり、または就業規則等の定めがない場合でも60歳以上の従業員はいつでも会社に対して定年退職を申し出ることができ、申し出をした日から30日経過後に定年退職したものと扱われます。

タイでは定年による雇用契約の終了も解雇の一種と考えられており、定年退職時に法定の解雇補償金を支払う必要があります。労働者保護法において、119日を超えて勤務した従業員を解雇する場合は原則解雇補償金を支払うことが定められており、定年退職した場合も解雇補償金の支給対象となりますので、会社に退職金制度が無い場合でも、将来の定年退職者の解雇保証金を算定して、退職給付引当金を計上する必要があります。

労働者保護法改正の影響

以前はタイ労働者保護法には定年退職に関する定めはありませんでしたが、2017年の法改正により定年退職にも解雇補償金の支払いを義務付けることが明記されました。

法改正により、定年退職者への解雇補償金支払いが必要となることから、企業は将来発生が見込まれる当該支出に対して、退職給付引当金を計上することが求められるようになりました。これは、将来発生する退職金に対する当期末の負債額を計算する方法で、将来の財務負担を適切に見積もり、財務諸表に反映させるためです。

法定退職金の計算方法

退職金の額は、従業員の勤続期間に応じて以下のように定められています:

  • 120日以上1年未満:退職時の賃金の30日分
  • 1年以上3年未満:退職時の賃金の90日分
  • 3年以上6年未満:退職時の賃金の180日分
  • 6年以上10年未満:退職時の賃金の240日分
  • 10年以上20年未満:退職時の賃金の300日分
  • 20年以上:退職時の賃金の400日分

月給者の場合、1日あたりの賃金は月給を30で除して計算します。

退職給付引当金の計算方法

退職給付引当金の計算は、将来支払うであろう退職金額を確率的に見積もり、現時点で負っている負債額を算出するプロセスです。

計算対象となる賃金と手当

退職金の計算対象となる賃金には、基本給のほか、毎月一定額で支給される手当も含まれます。ただし、以下のものは計算対象外とされています:

  • 皆勤手当
  • 残業代
  • 社会保険上の算定基礎に含まれない賃金

これらは毎月一定額でない、または社会保険上の定期的な同額支給に該当しないため、一般的に解雇補償金の計算対象外と考えられています。

主な計算方法の種類

退職給付引当金の計算方法には、主に以下の3つのパターンがあります:

年金数理人への委託

年金数理人(アクチュアリー)に委託して年金数理計算を行う方法です。

  • 特徴:計算結果の信頼性が高く、大手監査法人の監査でも基本的に利用可能
  • 適用ケース:規模の大きい会社や、監査の水準が厳しい場合
  • コスト:委託費用がかかる

社内での計算

経理スタッフが社内で計算を行う方法です。

  • 特徴:コストを抑えられるが、計算根拠の提示・説明が必要
  • 適用ケース:中小規模の会社で、監査水準が厳しくなく、経理スタッフのレベルが一定以上ある場合
  • 計算プロセス:従業員の勤続年数、年齢、給与額、離職率等の前提条件に基づき、確率的に退職金額を見積もる

監査人による計算

会計監査人が試算を行い、会社側が確認のうえ計上する方法です。

  • 特徴:本来は認められないが、中小企業では多く見られる
  • 適用ケース:社内で計算する体制がない会社
  • 留意点:従業員数が少ない、勤続年数が短い、年齢が低い、早期離職率が高いなどの場合、引当金を計上しないケースもある

退職給付引当金の会計処理

退職給付引当金の会計処理は、初めて計上する場合と、その後の定期的な見直しで異なります。

初めて計上する場合の処理

これまで退職給付引当金を計上していなかった場合、初年度は全額を一括で計上します。この処理により、当期の費用が一時的に増加しますが、これは過去の期間に対応する引当金を一度に認識するためです。

定期的な見直しと調整

初回計上後は、毎年の決算時に数理計算を行い、負債の増加額または減少額を追加計上または取り崩します。この定期的な見直しにより、退職給付引当金の金額を適切に維持します。

退職給付引当金の税務上の取り扱い

退職給付引当金は、会計上と税務上で異なる取り扱いがされます。

費用計上時の税務処理

退職給付引当金の計上時の費用は、見積費用のため税務上の損金として認められません。法人税申告書(PND50)において、引当計上による費用を加算処理して調整する必要する必要があります。

実際の支払い時の税務処理

実際に定年退職があり解雇補償金を支給した場合:

  • 会計上:既に引当金計上済みのため、追加の費用計上はありません
  • 税務上:解雇補償金の支給時に費用として認められます

そのため、実際に解雇補償金を支給した年度において、法人税申告書(PND50)上で減算処理をして調整する必要があります。

実務上の留意点

退職給付引当金の運用にあたっては、いくつかの実務上の留意点があります。

通常解雇時の取り扱い

退職給付引当金は通常解雇時の解雇補償金には充当できません。あくまで定年退職時の解雇補償金になるため、通常解雇時の保証金とは別の取り扱いになります。ただし、引当金計算時に人数が減っている等の条件の変更により引当金額が減少することはあります。

引当金の増減明細管理

減算処理の漏れを防ぐため、引当金の増減明細を作成することが望ましいです。この明細には以下の項目を含めます:

  • 前期からの引当金繰越額
  • 当期の引当金追加計上額
  • 引当金の使用額
  • 当期末残高

この明細を適切に管理することで、税務処理の正確性を確保し、監査にも対応しやすくなります。

まとめ

タイでの退職給付引当金は、2017年の労働者保護法改正に伴い重要性が増しています。計算方法は企業規模や状況に応じて選択し、会計上は将来の負債を適切に反映させ、税務上は実際の支払い時に費用として認識します。実務では、通常解雇時の取り扱いや引当金の増減明細管理に注意が必要です。適切な引当金管理は、企業の財務健全性と法令遵守に不可欠です。

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