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タイ|固定資産の会計・税務処理を徹底解説

(日本語)

タイにおける固定資産の会計・税務処理について詳しく解説します。耐用年数の変更による利益改善方法や、廃棄・売却時の注意点、税法上の特徴など、実務に役立つ情報を提供します。

タイの固定資産に関する基本的な規定

タイにおける固定資産の会計・税務処理には、日本とは異なる特徴があります。これらの規定を正しく理解し、適切に対応することが、ビジネスを円滑に進める上で重要です。

固定資産の定義と計上基準

タイでは、固定資産の計上に関する明確な金額基準が設けられていません。これは日本の法人税法とは大きく異なる点です。

タイの税法上は、原則として1年以上使用する資産は全て固定資産として計上する必要があります。しかし、少額のものを全て固定資産計上していては実務が煩雑になりすぎるため、一定の金額基準を設けて費用処理する方法を採用していることが多いです。重要なのは、一度定めたルールを継続して適用することです。税務調査の際にも説明資料となるため、合理的な理由がない限り、基準を変更しないことが望ましいでしょう。

取得価額の算定方法

タイにおける固定資産の取得価額は購入代価に加えて、使用可能な状態になるまでにかかった下記のような不随費用が含まれます:

  1. 運送費
  2. 関税
  3. 据え付け費用
  4. 借入の金利(日本と異なる特徴的な点)
  5. その他取得のために要した費用

特に、借入の金利を取得価格に含める必要があることは、日本の会計実務とは異なる重要なポイントです。この点に注意して、適切に取得価額を算定することが求められます。

償却開始時期の特徴

タイにおける固定資産の償却開始時期は、日本とは異なる特徴があります:

・タイ:資産が使用可能になった時から償却開始 – 支払い時期に関係なく、資産が使用可能になった日から償却を開始します。設備の試運転(正常に作動するか検証、返品可能な状態)であれば償却の必要はありませんが、量産のための試運転であれば償却を開始する必要があると考えられます。

・日本:資産を事業用に供した時から償却開始

この違いを認識し、適切なタイミングで償却を開始することが、正確な会計処理と税務申告につながります。

タイにおける固定資産の減価償却方法

タイでの固定資産の減価償却には、日本とは異なる特徴や注意点があります。適切な方法を選択し、正確に償却を行うことが重要です。

税法上認められる償却方法

タイの内国歳入法では、減価償却の方法について具体的な規定はありません。そのため、基本的には会計上の償却方法に従うことになります。実務上は定額法が採用されることが多いですが、一般に認められている減価償却方法(定額法、定率法、級数法)は、規定された償却率の上限を超過しない限り、いずれも採用できます。

これらの方法の中から、資産の性質や使用状況に応じて適切な方法を選択します。ただし、一度選択した方法は、歳入局長の変更の承認を得ない限り、継続して適用しなければなりません。

耐用年数の設定と変更

タイの税法では、固定資産の耐用年数について、以下のような規定があります:

・建物:20年以上 ・機械:5年以上 ・ソフトウェア・IT機器:3年以上

これらは最低限の年数であり、実際の使用可能期間に応じてより長い耐用年数を設定することができます。例えば、10年使用可能な機械装置であれば、5年ではなく10年の耐用年数で償却することが可能です。

途中で耐用年数を変更する場合は、事前に監査人と合意する必要があります。変更の目的(より実態に近づけるため等)や変更の説明、根拠資料の提供等で監査人が納得できるように話し合うことが重要です。

特別償却の適用条件

タイでは、特定の条件下で特別償却が認められています。主な対象は以下の通りです:

  1. 研究開発のための機械装置―取得時に40%で償却し、残りを年間最大20%の償却率で償却できる。
  2. コンピューター機器、ソフトウェア―3会計期間で償却できる。

・中小企業に適用される特別償却(土地を除く固定資産2億バーツ以下で、従業員200人以下)

  1. 機械装置―取得時に40%で償却し、残りを年間最大20%の償却率で償却できる。
  2. コンピューター機器、ソフトウェア―取得時に40%で償却し、残りを3会計期間で償却できる。
  3. 工場建物―取得時に 25%で特別償却し、残りを年間最大 5%の償却率で償却することができる。

固定資産の廃棄・売却時の税務処理

固定資産の廃棄や売却を行う際には、タイ特有の税務上の注意点があります。適切な手続きを踏むことで、不要な税負担や税務リスクを回避できます。

廃棄時の手続きと注意点

固定資産を廃棄する際には、以下の手続きが必要です:

  1. 固定資産の破損状況を検査し、社内承認者がこれを承認する。
  2. 廃棄の30日前までに歳入局へ通知する。
  3. 経理部門、会計監査人が廃棄に立ち会い、監査人による廃棄証明を作成する。

この手続きを踏まずに廃棄すると、固定資産除却損の損金算入ができなくなります。既に償却が終わっている場合でも、簿価1THBについて損金算入ができなくなるため注意が必要です。

ただし、煩雑な手続きを避けたい場合は、以下の方法も考えられます:

  1. 固定資産を廃棄した上で、売却したとみなして売上VATを納付する。
  2. 固定資産除却損を損金不算入経費として処理する。

この方法であれば、税法上の煩雑な手続きを踏まずに廃棄を行うことが可能です。ただし、除却損の損金算入はできないため、税負担が増える可能性があります。

グループ会社への売却時の留意事項

グループ会社への固定資産売却時には、以下の点に注意が必要です:

  1. 市場価格での売却が求められます。
  2. 簿価での売却は、税務上のリスクがあります。

例えば、簿価1THBの償却済み資産を1THBで売却した場合、市場価格が5,000THBであれば、税務署から4,999THB相当を相手に寄付したとみなされる可能性があります。その場合、4,999THBの雑収入計上とその7%のVAT納付が求められるリスクがあります。

売却する際には売却金額について、できるだけ金額の妥当性を証明できる書類(第3者へ売却した場合の価格、スクラップ処分の価値相当額)を集めて説明することでリスクを抑えることができます。

みなしVAT納付の必要性

固定資産の廃棄時には、みなしVATの納付が必要になります。

中古販売が可能な資産の場合、「販売していれば得られたであろう収益」の7%について、みなしVATの納付が必要です。この納付は、PP30(VAT申告書)上で行います。

注意点として、みなしVAT納付では実際に販売先からVATを預かっていないため、自社の負担(PL費用計上)で納税することになります。また、VAT申告時に収益として計算されるため、法人税確定申告(PND50)とVAT申告書(PP30)上の売上に差が生じます。

この差額については、管理表(TAX reconciliation)を作成し、歳入局への説明ができるよう準備しておくことが望ましいでしょう。

固定資産管理における実務上の課題と対策

タイでの固定資産管理には、日本とは異なる実務上の課題があります。これらの課題に適切に対応することで、より効率的な資産管理と税務処理が可能になります。

少額固定資産の取り扱い

タイでは、少額固定資産に関する明確な規定がなく、原則1バーツ以上で、かつ1年以上使用するものは全て固定資産として計上する必要があるため、原則通りに全て固定資産として計上すると実務が非常に煩雑になる問題があります。

この問題に対応するため、実務上は一定の金額基準を設けて、その金額以下の資産は費用処理することが一般的に行われています。一定の金額基準が少額であれば税務当局も指摘してこない傾向にありますが、税法で認められている方法ではないため、一定のリスクがあることを念頭に置いて対応する必要があります。

耐用年数変更による利益改善の手法

固定資産の耐用年数を適切に見直すことで、利益を改善できる可能性があります。以下のような手順で検討することが考えられます。

1.現在の償却状況を確認する。

  • 「税法上の耐用年数」をそのまま使用していないか。
  • 機械装置等の大型固定資産を保有しているか。

2.実際の使用可能期間を見直す。

  • 例:10年使用可能な機械を5年で償却していないか。

3.耐用年数の変更を検討する。

  • 変更により、年間の償却費負担が減少し、利益が増加する。
  • 例:1,000万THBの機械を5年から10年償却に変更すると、年間100万THBの利益増(初年度から5年、10年の耐用年数を使用した場合の比較)。

4.監査法人と協議・合意する。

  • 変更の目的は「税務の耐用年数ではなく、実際に使用可能な耐用年数へ変更し、決算を適正化するため」と説明。
  • 変更後の耐用年数の根拠を提供。

この手法は、実態のビジネスを変えずに「決算処理を適正化」するだけで利益を捻出できる方法です。ただし、あくまでも実際の使用可能期間に基づいて変更を行うべきで、不適切な利益操作とならないよう注意が必要です。また、年度の償却費用は変わりますが、トータルの償却費用は変わりません。

システム対応と手動調整の必要性

耐用年数の変更や特殊な償却方法の採用により、以下のような実務上の課題が生じる可能性があります

  1. 会計システムや固定資産システムが耐用年数の途中変更をサポートしていない。
  2. ERPなどの自動償却計算と実際の償却計算に差異が生じる。

これらの課題に対応するため、以下の方法を検討します:

  • システムによる自動償却は継続する。
  • 耐用年数変更による償却減少額を手動で計算し、会計上で調整する。
  • 差異の管理表を作成し、定期的に確認・調整を行う。

これらの対応により手間が増えるため、償却費減少のメリットと比較して判断する必要があります。また、手動調整を行う場合は、計算ミスや漏れがないよう、十分な注意と定期的なチェック体制が必要です。

まとめ

タイにおける固定資産の会計・税務処理には、日本とは異なる特徴や注意点があります。取得価額の算定、償却開始時期、耐用年数の設定など、様々な面で独自のルールがあります。特に、借入金利を取得価額に含める点や、明確な少額資産の基準がない点は注意が必要です。また、固定資産の廃棄や売却時には、適切な手続きとみなしVAT納付の検討が重要です。

耐用年数の変更による利益改善の手法は、実態に即した適正な会計処理を行うための有効な方法ですが、監査法人との合意や根拠の準備が不可欠です。システム対応と手動調整の必要性も考慮し、効率的な固定資産管理を目指しましょう。

これらの知識を活用し、タイでのビジネスにおける固定資産管理を適切に行うことで、税務リスクの低減と経営の最適化につながります。

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