タイの源泉所得税について、その仕組みや対象となる取引、税率などを詳しく解説します。日本との違いや注意点、正しい処理方法についても触れ、タイでビジネスを展開する上で欠かせない知識をお伝えします
目次
タイの源泉所得税とは
タイで事業を行う上で、源泉所得税に関わる取引は必ず発生すると言っても過言ではありません。源泉所得税は、源泉徴収制度により徴収される税金のことを指します。
源泉徴収制度の概要
源泉徴収制度とは、所得税の徴収制度の一つであり、給与や報酬などの所得の支払者が、所定の方法により所得税を計算し、支払い時に受取人に代わって所得税を差し引き、税務当局に納付する制度になります。
この制度は、給与の支払いにも適用されます。会社が従業員に給与を支給する際、その給与の金額から源泉所得税額を計算し、支給金額から控除して歳入局に納付します。
源泉徴収税は、給与や配当、広告料、利子、ロイヤリティ、サービス料など、さまざまな種類の所得に対して適用されますので、支払者はどの種類に該当するのかを確認して、それぞれの源泉税率に応じて源泉徴収および納付する義務があります。タイでは源泉徴収税が企業や個人にとって非常に一般的な存在です。適正な税務処理を行うためには、この制度を正しく理解し、適用される税率や納付手続きを把握しておくことが必要不可欠です。
源泉所得税が必要な理由
源泉徴収制度が存在する主な理由は以下の通りです:
- 確実な税金徴収:個人が確定申告を怠った場合でも、国が確実に税金を徴収できます。
- 納税の平準化:毎月の給与から税金を徴収することで、年度末の一括納税による負担を軽減します。
- 徴税コストの削減:国が直接徴収するよりも、企業を通じて徴収することでコストを抑えられます。
ただし、企業側にとっては源泉徴収の手間がかかり、源泉徴収および納付を怠った場合にはペナルティが課されるため、注意が必要です。
源泉徴収が必要な主な取引
タイでは、国内のほとんどのサービス取引および外国法人への支払いに源泉徴収が適用されます。主な取引について支払いを受ける者ごとに見ていきましょう。
タイ国内の個人への支払い
タイ国内の個人に対する以下の支払いには源泉徴収が必要です:
- 給与、退職金等
- 役員報酬
- 配当金
- 請負代金
- サービス料
- 利息
- 賃貸収入
- その他の所得
タイ国内の法人への支払い
タイ国内の法人に対する以下の支払いには源泉徴収が適用されます:
- サービス料
- ロイヤリティ
- 利子
- 配当金
- 広告料金
- コミッション
- 賃貸収入
外国法人への支払い
外国法人に対する以下の支払いには源泉徴収が必要です:
- 配当
- 利子
- ロイヤリティ
- 人的役務サービス料
- 専門的サービス料
- 株式売却益
- 賃貸収入
日本とタイの違い
日本とタイの源泉徴収制度には、いくつかの違いがあります:
- 対象取引の範囲:タイの方が広範囲で、ほとんどのサービス取引が対象となります。
- 法人間取引:日本では主に個人事業主への一定のサービスに対して源泉徴収が行われますが、タイでは内国法人および個人へのサービスに対して広く源泉徴収が適用されます。
- 納付期限:タイでは支払いが行われた月の翌月7日まで、日本では原則として翌月10日までとなっています。
これらの違いを理解し、適切に対応することが重要です。
源泉所得税の税率
タイの源泉所得税の税率は、取引の種類や支払先によって異なります。主な取引の税率を国内取引と国外取引に分けて見ていきましょう。
国内取引の税率
タイ国内での主な取引に適用される源泉所得税の税率は以下の通りです:
- 配当:10%
- 利子:1%
- 広告料:2%
- サービス:3%
- コミッション:3%
- ロイヤリティ:3%
- 賃貸料:5%
これらの税率は、タイ国内の個人や法人との取引に適用されます。
国外取引の税率
外国法人との取引に適用される源泉所得税の税率は以下の通りです:
- 配当:10%
- 利子:15%
- ロイヤリティ:15%
- 賃貸料:15%
- 株式売却益:15%
- 人的役務提供サービス:15%(日タイ租税条約が適用される場合0%、PEなければ課税なし)
日本とタイの間には租税条約が締結されています。租税条約とは、国と国の間で課税権の及ぶ範囲を定め、二重課税の排除及び租税回避の防止策を目的として締結された条約です。租税条約と国内法の規定が異なる場合には、租税条約が優先して適用されます。従いまして、租税条約および国内法の両方の税率を見て判断する必要があります。専門的な判断が必要な場合もありますので、迷ったときは専門家に相談されることをお勧めします。
源泉所得税の計算と納付方法
源泉所得税の正しい計算と適切な納付は、タイでビジネスを行う上で非常に重要です。具体的な計算方法と納付手続きについて見ていきましょう。
計算方法の具体例
例えば、A社がB社からサービス(源泉徴収対象)を受け、10,000バーツの報酬と700バーツのVAT(7%)の請求書を受け取った場合、以下のように計算します:
- サービスにかかる源泉徴収税額:10,000バーツ × 3% = 300バーツ
- B社への支払額:10,000バーツ – 300バーツ + 700バーツ = 10,400バーツ
- 税務当局への納付額:300バーツ
A社は10,400バーツをB社に支払い、300バーツを源泉徴収税として税務当局に納付します。
納付期限と手続き
タイでは、源泉所得税の納付期限は以下の通りです:
- 納付期限:支払いが行われた月の翌月7日まで
- 申告・納付先:歳入局(税務署)
納付を怠った場合、ペナルティ(延滞税、不納付加算税など)が課される可能性があるため、期限を厳守することが重要です。また、どのような取引が源泉徴収の対象になるかを判断するのも、慣れていない人にとっては難しいこともあります。正確な計算と適切な処理を行うために、タイ人の経理担当者や会計事務所のアドバイスを受けることをお勧めします。
利益還流時の源泉所得税
タイで事業を行う日系企業が、利益を日本の親会社に還流する場合や、タイ国内のパートナーに利益を配分する場合、源泉所得税の取り扱いに注意が必要です。
配当での還流時の税率
配当を通じて利益を還流する場合の源泉所得税率は以下の通りです:
- タイ法人から日本の親会社への配当:10%
- タイ法人からタイのパートナーへの配当:10%
利息での還流時の税率
利息を通じて利益を還流する場合の源泉所得税率は以下の通りです:
- タイ法人から日本の親会社への利息:15%
- タイ法人からタイのパートナーへの利息:15%
上述の租税条約を見ても、現在の日本タイ租税条約では、国内法と同率が適用されているため、特別な軽減措置はありません。
源泉税の徴収漏れがある場合、自社でグロスアップ(逆算計算)して負担しなければならない可能性があります。また、対応が遅れると利息が発生する可能性もあるため、事前の計算と適切な対応が重要です。
なお、これらは配当や利息の支払い時の源泉所得税についてであり、受け取る側の税金についても別途考慮が必要です。
賃貸料にかかる源泉税の注意点
タイで不動産を賃借する際の賃貸料にかかる源泉税について、いくつかの注意点があります。
賃貸料とサービス料の区分
タイでは、事務所賃料を「賃貸料」と「サービス料」に区分して請求するケースが多くなっています。この場合、源泉税率が以下のように異なります:
- 賃貸料:5%
- サービス料:3%
賃貸料のみの場合は、一律5%の源泉税率が適用されます。
なお、VATについては、賃貸料は非課税であり、サービス料は7%のVATが課税されます。
税務上のリスクと対策
一般的に、事務所賃貸料は賃料部分とサービス料部分に分かれおり、賃料の半分を賃貸料、残りの半分をサービス料とするケースが多く見られます。これは、借主側が源泉税を低く抑えたいという意向があるためです。
しかし、賃料等を受け取る側において、税務署はサービス料が不自然に高い場合を許容しません。通常、賃貸料以上のサービス料については、税務調査の際に指摘されるリスクが高くなります。
対策として、以下の点に注意しましょう:
- 賃貸料とサービス料の比率を適切に設定する
- サービス料の内容を明確に定義し、文書化する
- 必要に応じて税務専門家のアドバイスを受ける
借りる側としては、契約を結ぶ前に、当該契約にかかる税金は借主が支払うという条項が含まれていないか注意してください。この条項がある場合は当該条項に基づいて、源泉税や土地家屋税の負担を求められる可能性があります。
タイの法務・税務の制度には常に背景があります。その背景を理解することで、リスクへの対応策を講じやすくなります。
まとめ
タイの源泉所得税制度は、日本とは異なる点が多くあります。主な特徴として、対象取引の範囲が広く、法人間取引にも適用される点が挙げられます。また、取引の種類や支払先によって税率が異なるため、正確な計算と適切な納付が求められます。
利益還流時や賃貸料の支払いなど、特殊なケースにおいても源泉所得税の取り扱いに注意が必要です。タイでビジネスを展開する上で、源泉所得税に関する知識は不可欠であり、適切な対応が求められます。
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