コラムCOLUMN
M&A

タイでのM&A成功のための株式譲渡と事業譲渡のスキーム比較

M&A

タイでM&Aを検討する際、株式譲渡と事業譲渡のどちらを選択するかは、税務、法務、リスク承継の観点から極めて重要です。この記事では、タイにおけるM&Aの主要な手法の違いを明確に解説し、貴社に最適な「買収 ストラクチャー」の選び方について、タイ専門のCPAが分かりやすくお伝えします。

タイでのM&A成功のための株式譲渡と事業譲渡のスキーム比較

タイにおけるM&Aスキームの概要と最近の法改正

タイでのM&A(合併と買収)は、業界シェアの拡大、新規事業の創出、ノウハウの獲得といった企業の成長戦略を実現するための有力な手段として活用されています。タイにおけるM&Aの代表的な手法(スキーム)は、主に「株式譲渡」と「事業譲渡」に大別され、それぞれ法務上および税務上の取扱いが大きく異なります。

タイでのM&A手法の選択肢

M&Aの目的や対象企業が抱える潜在的なリスクに応じて、最適な買収ストラクチャーを選択することが成功の鍵となります。株式譲渡は手続きが簡便な一方でリスクを包括的に承継し、事業譲渡はリスクを選択できる代わりに手続が煩雑になるという特徴があります。

タイ民商法改正による吸収合併の導入

従来、タイの会社法(民商法典)では、複数の会社を統合して新しい法人を設立する新設合併のみが認められていました。しかし、2023年2月には民商法典が改正され、法人格を存続する法人が消滅する法人を合併する「吸収合併」の方式(民商法典第1238条(2))が導入されました。

この改正により、吸収される企業の清算手続が会社法上、自動的に不要となりましたが、税務上の取扱いについては、歳入局のタックスルーリング(GorKhor 0702/1112)により、原則として「全部事業譲渡」と同様の性格を持つもの(歳入法典第74条(1)(c))が適用されることになっています。

タイでの株式譲渡の法務・税務上の取扱い

タイのM&Aスキームにおいて、法的な手続が比較的簡便であるため最も一般的に用いられるのが「株式譲渡」です。この手法は、対象企業の法人格を維持したまま株主構成を変更することで支配権を獲得します。

株式譲渡の手続と承継リスク

株式譲渡の手続は、譲渡の対象となる株式数や株券番号などを記載した株式譲渡証書を作成し、当事者および証人が署名することで実行されます。手続完了後、会社は株主名簿を書き換え、商務省に株主リスト(BorOrJor.5)の変更登記を行う必要があります。

法務上の特徴として、株式譲渡では対象企業のすべての権利義務関係が包括的に承継されます。許認可、契約関係、従業員との雇用契約などはそのまま引き継ぐことができますが、同時に過去の簿外債務や潜在的な税務リスク、係争案件のリスクも承継します。

株式譲渡にかかる税務と法規制の影響

税務面では、売り手(株主)は譲渡価格と株式の帳簿価格の差額であるキャピタルゲインに対して、法人税(基本税率20%)が課税されます。また、譲渡価格に対して0.1%の印紙税が課されます。

タイ特有の法規制として、外国人事業法(FBA)の規制業種に該当する場合、株式譲渡後の外資比率(50%超で外国人となる)が規制に抵触しないか、土地法上の土地保有規制に違反しないかなど、事前の確認が必須となります。

タイでの事業譲渡の法務・税務上の取扱い

事業譲渡は、対象企業の事業に含まれる資産や負債を個別に選定し、譲受法人に譲渡する手法です。株式譲渡と比較した最大の利点は、簿外債務や不要なリスクを切り離して取得できることです。

事業譲渡の種類と法的な特徴

事業譲渡には、事業のすべてを譲渡する「全部事業譲渡(EBT)」と、一部の事業のみを譲渡する「一部事業譲渡(PBT)」があります。事業譲渡では、資産や契約を個別に移転させる手続が必要となるため、一般的に手続が煩雑で時間とコストを要します。

また、事業継続に必要な許認可やライセンスは原則として譲受法人が再取得する必要があり、外国人事業ライセンスなど承継が難しい許認可も多く存在します。従業員についても、譲受法人が新たに雇用契約を締結し直す必要があり、その際に解雇補償金の支払いが発生する可能性があります。

タイでのM&A手法の比較と最適な買収ストラクチャーの選定基準

タイでM&Aを成功させるためには、株式譲渡と事業譲渡のメリット・デメリットを詳細に比較し、貴社の事業戦略に合わせた最適なスキームを選択することが重要です。

株式譲渡と事業譲渡のメリット・デメリット比較

株式譲渡は、手続が簡便で許認可や契約の承継が容易である反面、潜在的なリスクをすべて承継します。一方、事業譲渡は、リスクを切り離せるという点で優れていますが、許認可の再取得や契約の巻き直し、清算手続といった煩雑な手続が伴います。

中小企業の事例に合わせた最適なスキーム選択の基準

中小企業のM&Aでは、リスクの大きさや事業継続性の確保が重要な判断基準となります。対象企業のリスクが限定的で、許認可の承継を最優先したい場合は株式譲渡が適しています。対照的に、対象企業の財務状況に不透明さがあり、リスクを完全に遮断したい場合は事業譲渡を選択すべきです。

タイ特有の外資規制がスキーム選定に与える影響

タイの外国人事業法(FBA)は、外資比率が50%を超える外国企業が規制業種で事業を行うことを制限しています。タイで「合弁会社の設立」を通じた買収を検討する場合、規制業種であれば事業譲渡後の許認可再取得が困難となる可能性が高く、許認可の承継が可能な株式譲渡の継続が望ましい場合もあります。外資規制がスキーム選定に与える影響は大きいため、専門家によるデューデリジェンス(DD)と法務・税務検証が必須です。

タイでのM&Aスキームに関するよくあるご質問(FAQ)

以下ではQ&A形式でよく頂く質問について解説します。

Q:株式譲渡と事業譲渡、どちらが自社に適しているか?

A:貴社が何を最優先するかによって異なります。手続の簡便性や迅速な実行を優先し、対象企業の潜在リスクが低いと評価できる場合は株式譲渡が適しています。一方、簿外債務や訴訟リスクなど、対象企業の潜在的なリスクを徹底的に排除したい場合は事業譲渡が適しています。ただし、事業譲渡は許認可の再取得や契約の巻き直しが必要となるため、手続の煩雑さや事業空白期間のリスクを許容できるかどうかが判断基準となります。最終的には、デューデリジェンスを通じてリスクを詳細に把握した上で、最適な買収ストラクチャーを決定することが重要です。

Q:法的な手続の違いは何か?

A:株式譲渡は、主に株式譲渡証書作成と株主名簿の書換え、商務省への株主リスト変更登記など比較的簡便な手続です。一方、事業譲渡は、事業に含まれる個々の資産、負債、契約について、譲渡手続と登記手続を個別に行う必要があります。また、従業員との雇用契約も個別に結び直す必要があり、解雇補償金の支払いに関する労働法上の手続も発生します。さらに、事業譲渡では許認可の多くが承継されず、許認可の再取得手続が必要となるため、法務手続の負荷が大きくなります。

まとめ

タイのM&Aにおける主要スキームである株式譲渡と事業譲渡は、法務・税務・リスク承継の観点からそれぞれ明確な違いがあります。特にタイでは、全部事業譲渡における税制優遇を受けるための清算要件や、外国人事業法に基づく外資規制がスキーム選定に大きな影響を与えます。M&Aの成功には、これらの要素を踏まえ、対象企業のリスクと貴社の戦略に合致した最適な買収ストラクチャーを選択することが不可欠です。

M&Aの検討は、新規進出から会計税務、組織再編まで複雑な要素が絡み合います。必要に応じて東京本社と連携し、バンコクに常駐するCPAが最適な解決策を提案いたします。まずはお気軽に無料相談フォームよりお問い合わせください。

事業承継にM&Aの選択肢