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タイのM&Aでの企業価値評価(バリュエーション)と適正な買収相場

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タイのM&Aにおける企業価値評価(バリュエーション)は、買収価格交渉の基礎となる重要な手続です。この記事では、日本企業の経営者向けに、タイ企業の適正な価格(価値)を算定する代表的な評価方法や、非上場株式の評価におけるタイ特有の留意点を解説いたします。

タイのM&Aでの企業価値評価(バリュエーション)と適正な買収相場

タイのM&Aでの企業価値評価(バリュエーション)の重要性

M&Aを成功させるためには、買収対象企業の適正な価値を把握することが不可欠です。この評価手続はタイのM&Aにおける企業価値評価(バリュエーション)と呼ばれ、買い手が「高値掴み」を避けるための基準となります。

この評価は、デューデリジェンス(DD)で判明したリスクや課題を価格に反映させる役割も担っており、交渉全体を通じて継続的に更新されます。評価結果に基づき、買い手は許容できる買収価格のレンジを常に想定し、交渉に臨む必要があります。

評価の基礎となる考え方:事業価値と株式価値

企業価値評価を行う際、評価対象の価値は「事業価値」「非事業用資産」、そして「有利子負債」に分解して検討されます。このうち、事業価値は、企業の本業が将来生み出すキャッシュフローの累積によって決まります。

最終的な「株式価値」はこれらの要素を踏まえて算定されます。タイのM&A対象企業はオーナー系企業が多いという背景から、グループ間取引が複雑な場合があり、事業価値の正確な把握が特に重要になります。

代表的なM&Aの評価手法

企業価値を算定するM&A評価方法には、インカムアプローチ、マーケットアプローチ、コストアプローチの3種類があり、タイのM&Aの実務でもこれらの手法が主に利用されています。

将来収益に基づく評価:DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)

DCF法は、インカムアプローチの代表格です。これは、対象企業が将来獲得すると予測されるキャッシュフローを現在価値に割り引いて企業価値を算出する方法であり、理論的に最も優れているとされています。

タイのM&Aでは、成長著しいアジアの新興国企業を評価することがあるため、事業計画の不確実性が高い場合があります。評価にあたっては、将来の収益見通しや、為替リスク、カントリーリスクプレミアムといったクロスボーダーM&A特有の論点を考慮することが必要です。

市場価格を基準とする評価:類似会社比準法

類似会社比準法(マルチプル法)は、マーケットアプローチの一種です。事業内容や規模などが類似する企業の市場株価や買収価額と、その経営指標の比率(マルチプル)を利用して、評価対象会社の価値を算出します。

コストに基づく評価:時価純資産法

コストアプローチは、貸借対照表上の純資産を基に評価します。時価純資産法は、資産や負債を評価基準日の時価で再評価し、その差額を株主価値とする評価方法です。

客観性が高い評価方法ですが、将来の超過収益や「のれん」といった無形資産価値を評価に取り込むことができないため、継続企業を前提とするM&Aの評価には限界があります。

タイの中小企業M&Aにおける相場観と論点

タイのM&A市場では、国内案件の多くが小規模な取引であり、タイのM&A相場を理解するためには、評価マルチプルの傾向と、非上場株式の評価における特有の課題を認識しておくことが肝要です。

評価マルチプルとタイのM&A相場

タイの中小企業のM&A相場について、特定のEBITDAマルチプルを適用することはできませんが、売り手からEBITDAの10倍といった具体的に提示される場合もあります。これは交渉の出発点となります。

実際の買収価格は、デューデリジェンスの結果に基づくリスク調整や、買い手が見込むシナジー効果、そして交渉を通じて最終決定されます。買い手は、自社が許容できる上限値を明確にして交渉を進める必要があります。

非上場株式の評価における留意点

タイの非上場株式の評価では、固定資産の評価に関する制度が日本と異なるため、土地や建物の時価評価が難しくなるという論点があります。また、タイのM&A対象会社はオーナー系企業が多いことから、対象会社とオーナー個人との間で資産や負債が曖昧になっているケースも多く、資産と負債の明確な分離に留意が必要です。

M&Aの企業価値評価で直面するタイ特有の課題

タイでのM&Aでは、日本の案件ではあまり見られない特有の課題に直面することがあり、これらの課題は評価額算定に大きな影響を与える可能性があります。

会計情報と事業計画の信頼性

タイの中小企業の中には、税務当局への提出用と内部管理用で「二重帳簿」を使い分けているケースが散見されます。財務デューデリジェンスでは、提示された会計情報の正確性を慎重に検証する必要があります。

また、予算や中長期計画が未作成であったり、管理会計の精度が低かったりすることがあります。これは、DCF法で重要となる事業計画の信頼性に直結し、計画の下振れにより買収後に減損リスクが生じる可能性があるため、注意が必要です。

潜在的なリスクの定量化

タイでは、税金の還付請求が税務調査のトリガーとなる実務が存在するため、付加価値税などの還付未収金が全額回収できないリスクがあることにも留意が必要です。

DDで把握できなかった簿外債務や潜在的な租税債務などが発見された場合、M&Aの価格調整や、株式取得から事業取得へのストラクチャー変更を検討する必要があります。

タイM&Aの企業価値評価に関するよくあるご質問(FAQ)

タイのM&Aにおける企業価値評価に関する、よくあるご質問と、それに対する専門家としての回答をご紹介いたします。

Q:タイ企業の価値評価はどうやって計算するのか?

タイのM&Aにおける企業価値評価(バリュエーション)は、主に将来の収益力に基づくDCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)と、市場価格との比較に基づく類似会社比準法を組み合わせて行われることが一般的です。DCF法では、将来のキャッシュフローを割引率で現在価値に換算します。類似会社比準法では、上場企業や類似取引のEBITDAマルチプルなどの指標を参考に、対象会社の価値を算出します。この際、タイ特有の会計や税務、事業計画の信頼性といった要因を十分に考慮し、評価額を調整することが重要です。

Q:中小企業のM&A相場はEBITDAの何倍か?

タイの中小企業のM&A相場(タイ会社値段)を一律のEBITDAマルチプルで示すのは困難です。市場や業界、企業の成長性や収益構造によって大きく変動します。実務上は、売り手側からEBITDAの数倍といった希望価格が提示されることもありますが、これは交渉の起点となります。買収価格は、デューデリジェンスの結果に基づくリスク調整や、買い手が見込むシナジー効果の程度、そして最終的な交渉によって決定されます。中小企業の場合、簿外債務や内部統制の脆弱性といった特有のリスクが価格に反映されるため、個別の精査が不可欠です。

Q:評価額と実際の売買価格の差は何か?

評価額(バリュエーション)は、DCF法や類似会社比準法などの客観的なM&A評価方法に基づいて算定された「企業価値」です。これに対し、実際の売買価格は、この企業価値をベースに、買い手が見込む「シナジー効果」や「売り手プレミアム」、そして「デューデリジェンスの結果による調整」や「交渉力」が加味されて決定される最終的な金額です。特にタイのM&Aでは、買い手側が実現可能性の高いシナジー効果を上乗せする、または交渉を通じて潜在的なリスクを織り込むことで、評価額と売買価格に差が生じることが一般的です。

まとめ

タイのM&Aにおける企業価値評価は、DCF法や類似会社比準法といった評価方法を用いつつ、タイ特有の会計や事業計画の信頼性、潜在的なリスクの有無を慎重に検証するプロセスが重要です。特に、タイのM&A相場は、最終的にデューデリジェンスの結果と交渉により決まるため、専門家による多角的な分析が不可欠です。

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