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タイにおけるM&A取引では、国際的な英文契約書にタイ独自の強制適用規則を反映させる必要があります。この記事では、タイM&A契約書の実務において核となる基本合意書(MOU)と株式譲渡契約書(SPA)の役割と、外国事業法(FBA)等の規制を踏まえたリスク管理の要点を専門的に解説します。

タイにおけるM&A契約書実務の特殊性
タイにおけるクロスボーダーM&A取引は、一般的に国際的な商慣行に基づいたM&A 英文契約書を使用しますが、国際標準に適合させるだけでなく、タイの法制度、特に規制環境を深く理解した上でのタイ M&A 契約書の設計が不可欠です。
英文契約書とタイ法の強制適用
クロスボーダーM&Aにおいては、準拠法を日本とタイのどちらかにするかという問題が出てきます。対象会社やその資産がタイ国内に所在する場合、タイで裁判を行うことを考慮しますと、タイ法を準拠法としておく方が無難ではあります。
タイのM&Aにおける主要契約書の役割
M&A取引の初期段階で締結されるのが、タイ 基本合意書(MOU)または意向表明書(LOI)です。これは買収対価の算定基礎やデューデリジェンス(DD)の実施期間、情報提供の枠組みなど、取引の主要条件について初期的な合意を形成する役割を担います。一方、タイ 株式譲渡契約書は、取引実行を最終的に決定し、株式の承継、対価の確定、そして最も重要なリスク移転と配分(表明保証と補償)を法的に根拠づける文書です。
基本合意書(MOU)の実務上の機能と法的拘束力
タイ 基本合意書(MOU)は、DD開始前に取引の枠組みを定め、交渉の効率性を高めるために利用されます。その作成目的は、DDを円滑に進め、交渉の勢いを維持しつつ、最終契約締結への道筋を設定することにあります。
MOUの主要構成要素
MOUの主要な構成要素には、買収対象の特定、買収対価の概要と算定基礎、DDの実施期間、買主による情報提供義務、そして情報保護のための秘密保持義務(Confidentiality)が含まれます。取引実行の義務に関する事項は、DDの結果により条件が変更される可能性を反映し、原則として非拘束的(Non-Binding)とするのが一般的です。
独占交渉権
交渉の過程とDDの保護に必要な特定の条項、特に独占交渉権(Exclusivity)については、法的拘束力を持たせることが必須となります。
株式譲渡契約書(SPA)の構成とリスク移転の設計
タイ 株式譲渡契約書 SPAは、M&A取引の成否とクロージング後の買主の財務リスクを直接左右する最も重要なタイ M&A 契約書となります。
対価決定メカニズムとエスクローの活用
SPAでは、譲渡対象となる株式の正確な特定と、買収対価の決定メカニズムを明確に定めます。対価決定方法には、クロージング後の財務諸表で調整するCompletion Accounts方式や、固定された基準日を基に対価を確定するLocked-Box方式があります。さらに、買収対価の一部を中立的な第三者に預託するエスクローの仕組みは、売主の信用リスクや、特にタイ特有の潜在リスクが特定された場合の、買主にとって重要なリスクヘッジ手段となります。
表明保証(R&W)の役割とタイ特有のリスク
表明保証の重要性は、買主に対し、契約締結日およびクロージング日時点における対象会社の状態が売主の保証通りであることを確認させる点にあります。表明保証の真実性はクロージング後の損害賠償請求(Indemnification)の基礎を提供します。タイ M&A 法務では、一般的な保証に加え、タイの法規制に関連する特定の保証を詳細に組み込む必要があります。
タイ外国事業法(FBA)関連の保証
タイM&A取引における最大の規制リスクは、外国事業法(FBA)の承継遵守です。事業継続に必要なFBAライセンスやタイ投資委員会(BOI)の承認、その他の公的許認可の取得状況、およびそれらの遵守状況に関する厳格な保証が求められます。過去の不遵守は将来的な罰則や事業停止につながるリスクが高いため、表明保証の中でも特に重視されます。
税務リスクに関する保証
タイ税務当局による遡及的な課税リスクは高いため、源泉徴収税(WHT)や付加価値税(VAT)、法人税の申告および納付が過去の特定の期間にわたり適正に行われていることに関する詳細な保証が求められます。
表明保証違反時の補償条項の交渉論点
補償(Indemnification)条項は、表明保証違反が発覚した場合に、買主が売主に損害賠償を請求するための詳細な手続きと制限を定めます。交渉の焦点となるのは、補償期間、損害賠償の上限(Cap)、および下限(Basket)の設定です。
クロージングの前提条件(CP)とFBA許認可の連携
クロージングの前提条件は、契約締結(Signing)から取引完了(Closing)までの期間において、買主が取引から撤退できる権利を確保するために設定されます。CPには、表明保証の真実性の確認や契約義務の遵守などが含まれます。
タイにおける紛争解決手段と執行可能性
クロスボーダー取引の紛争解決手段としては、タイ国内の裁判所での訴訟を避け、仲裁を選択することも多くあります。国際的な仲裁機関を仲裁地とし、中立的な専門家による判断を得る点で優位性があります。
仲裁の選択と執行上の留意点
タイはニューヨーク条約の加盟国であるため、外国仲裁判断は原則的にタイ国内で執行可能ですが、執行を確実にするためには、タイの公序良俗に反しないよう設定する必要があります。例えば、過度な懲罰的損害賠償などは執行を拒否されるリスクがあります。補償義務を担保するため、エスクローや売主の親会社からの保証を事前に確保することで、救済措置の実行可能性を担保することが実務上の最善策となります。
タイにおけるM&A契約書に関するよくあるご質問(FAQ)
タイ企業の買収において、契約書は将来のリスクを左右する重要な要素です。ここでは、特に日本企業の経営者や責任者様から寄せられることの多い契約書に関する疑問点にお答えします。
Q:MOU(基本合意書)に法的拘束力は持たせるべきでしょうか
A:取引の実行義務そのものについては、デューデリジェンスの結果を待つ必要があるため、非拘束的(Non-Binding)とすべきです。一方で、買主のDDへの投資を保護し、交渉の枠組みを維持するため、秘密保持義務、費用分担、独占交渉権、および紛争解決に関する条項については、法的拘束力を持たせる必要があります。特に独占交渉権については、タイ法上の強制履行が困難なため、違反時の合理的な予定賠償額(Liquidated Damages)を設定することで、損害立証の難しさを軽減し、実効性を高めることが推奨されます。
Q:SPA(株式譲渡契約書)で最も重要な条項は何でしょうか
A:リスクヘッジの観点から最も重要なのは、表明保証(R&W)と補償(Indemnification)のセクション、およびクロージングの前提条件(CP)のセクションです。中でも、タイ特有の重大リスクである外国事業法(FBA)コンプライアンスに関連するR&Wは取引の成否と継続的な事業運営に直接関わるため、最も厳格な検討が求められます。
Q:契約違反があった場合の対処法はどのように定められますか
A:違反が発生した時期によって対処法が異なります。クロージング前(SigningからClosingの間)に重大な契約義務の違反等があった場合、違反を受けていない当事者(通常は買主)は契約の解除権を行使し、DD費用などの実損害賠償を請求できます。クロージング後は、R&W違反や売主によるクロージング後義務の不履行があった場合、SPAの補償条項に基づき損害賠償を請求します。
まとめ
タイにおけるM&A契約書実務は、M&A 契約書の国際標準とタイの国内法規制、特にFBAへの対応を両立させる高度な設計が要求されます。基本合意書では独占交渉権の法的拘束力確保と予定賠償額の設定が重要であり、株式譲渡契約書ではFBA・税務リスクに対する表明保証と補償責任等のリスク管理の徹底が成功の鍵です。
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