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タイのM&Aでの会計事務所の選定と活用法・財務税務DDの内容

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タイのM&Aにおいて会計事務所は、リスクの特定と取引価値最大化を実現する戦略的パートナーです。本記事では、財務・税務デューデリジェンス(DD)の具体的内容、最適な税務ストラクチャー設計、そしてタイのM&Aでの会計事務所の選定基準を解説し、取引成功への道筋を明らかにします。

タイのM&Aでの会計事務所の選定と活用法・財務税務DDの内容

タイのM&A市場における専門会計事務所の戦略的役割

近年のタイのM&A市場は、タイランド4.0政策に代表されるように、技術革新、研究開発(R&D)、デジタル化を目的とした投資へと高度化しています。このような環境下で、M&Aの財務・税務を担当する専門の会計事務所の役割は、従来の受動的なコンプライアンス監査人から、取引価値を創造し、潜在的な致命的リスクを特定する戦略的なパートナーへと変貌しています。

M&A市場の高度化と専門家に求められる変革

専門家は、単に過去の財務諸表の正確性を検証するだけでなく、ターゲット企業が享受している既存の税制優遇措置の維持可能性を評価し、買収後の組織再編を通じて最大のタックスシナジーを実現するための複雑なストラクチャー設計能力が不可欠です。将来の資金運用や投資戦略を立案し、金融機関との折衝を含む「企画的な要素」に貢献できる専門家を選ぶことが、取引成功の要因となります。

経理機能と財務(戦略)機能の明確な分離

M&Aは、企業にとって重要な資金の運用、すなわち投資計画に該当します。タイの多くの企業、特に非上場の中小企業では、過去の記録・規制遵守を担う経理機能と、将来の資金計画・M&A・資金調達を担当する財務機能が明確に分離されていない場合があります。そのため、M&Aの専門家を選定する際には、この機能分離の理解が求められます。DDにおいて専門の会計事務所が提供すべきは、過去の帳簿検証結果(経理機能の延長)だけでなく、買収後のキャッシュフロー予測の確実性、国際的なバリュエーション調整(PPA)、および複雑なクロスボーダー税制の適用を見越した戦略的ファイナンス能力でなければなりません。

タイのM&Aで不可欠な財務・税務デューデリジェンス(DD)の具体的内容

会計事務所は、M&Aの初期評価から買収後統合(PMI)まで関与しますが、特にDDフェーズは、バリュエーションの前提条件を検証し、簿外負債や税務コンプライアンス違反といった致命的なリスク(ディールブレーカー)を特定する重要な段階です。DDを通じて得られた情報は、買収価格の修正項目を算定するための基礎となります。

財務DDの核心 Quality of Earnings(QoE)分析

財務デューデリジェンス(FDD)の主目的は、ターゲット企業が報告する過去の利益の質(QoE)を評価し、将来の事業計画の基礎となる正常化されたEBITDAまたはEBITを算定することです。タイのローカル企業を対象とする場合、タイ固有の商習慣や会計基準の差異を踏まえた調整を行う必要があります。

タイ固有の調整項目

創業家やファミリー企業が経営する企業では、オーナーの個人的な経費が事業費用として計上されている非事業費の排除が重要です。また、タイの商習慣においては、売上計上基準や債権管理が緩慢である可能性があるため、FDD専門家は、回収可能性が低い長期滞留債権(DSOの過度な長期化)について、引当金計上漏れを厳しくチェックし、適切な調整を適用しなければなりません。さらに、タイの会計基準(TFRS)は、日本の基準やIFRSと異なる部分があるため、差異がバリュエーションに与える影響を正確に特定し、必要に応じて購入者側の基準に合わせた修正を加えることが求められます。

タイの税務DDにおけるBOI優遇措置の検証

タイにおける税務デューデリジェンス(TDD)では、過去の税務コンプライアンスリスク特定に加え、将来の税務効率を最大化するストラクチャー設計の基盤を提供します。タイのM&Aにおいて、TDDが取引価値に与える影響は非常に大きく、特にタイ投資委員会(BOI)優遇措置の検証がその中核を成します。BOI優遇措置は、ターゲット企業のフリーキャッシュフロー予測の根幹を成し、取引価格に直結するためです。

BOI恩典の具体的優遇内容

BOIは、投資奨励業種に対して、強力な税制優遇を提供しています。優遇措置のグループ(A1など)に応じて内容は異なりますが、主要な恩典とTDDにおける主要リスクは次のとおりです。

BOI恩典項目最大特典内容TDDにおける主要リスク
法人所得税免除最長13年間過去の違反による追徴リスク
機械輸入関税免除上限なし承認リストとの不一致、非優遇事業への流用
追加的優遇措置R&D、人材育成、立地要件要件不充足による恩典の不適用

Clawbackリスクの評価と移転価格(TP)リスク

BOI恩典の最大の潜在的リスクは、規定の条件を遵守できなかった場合の遡及的な恩典取り消しと追徴課税(Clawback)の可能性であり、過去に免除された巨額の税額が簿外負債として顕在化するディールブレーカーとなり得ます。TDD専門家は、承認書に記載された全条件が満たされているかの検証が必須です。また、タイの税務アドバイザーは、タイ税務当局が近年執行を強化している移転価格税制(TP)リスクの検証も行います。ローカルファイル作成義務の遵守や、関連者間取引における独立企業間価格の適用検証がDDの焦点となります。

M&A後の税務ストラクチャー最適化と承継後の会計処理

DD結果に基づき、専門会計事務所は、税務効率とリスク回避を両立させる最適な買収ストラクチャーを設計することが、最も価値のある貢献の一つとなります。また、買収後の会計処理や税務統合(PMI)に関するサポートも継続的に行います。

最適な税務ストラクチャーの設計

買収スキームとしては、株式買収と事業譲受の税務効率比較が重要です。株式買収は潜在的負債を承継するリスクがありますが、手続は比較的簡素です。一方、事業譲受は潜在的負債の承継リスクを最小限に抑えられますが、資産移転に伴う付加価値税(VAT)の負担が発生し、BOIライセンスやその他の許認可の移転手続が複雑化する可能性がある点に留意が必要です。会計事務所は、これらの税務コストと手続の複雑性を総合的に評価し、スキームを提示します。

M&A後の会計処理とPMIサポート

買収後の統合計画(PMI)において、専門会計事務所は財務・税務統合をサポートします。これには、新体制下でのBOIコンプライアンス維持や移転価格ポリシーの再構築、グループ全体のタックスシナジー実現に向けた組織再編サポートが含まれます。特に、繰越欠損金の活用や、既存のBOI対象事業を持つ会社の合併・分割を行う場合の優遇措置の継続承認手続(BOI事務局との折衝)が重要です。また、タイから親会社への利益送金(配当、ロイヤリティ、利息)にかかる源泉徴収税(WHT)の最適化も、キャッシュフロー管理に直結します。国際的な税源浸食と利益移転(BEPS)プロジェクトへの対応を踏まえ、税務効率と同時に、将来的な当局の監査に耐えうる持続可能な経済実体に基づくストラクチャーを設計できる専門性が求められます。

タイのM&Aにおける専門会計事務所の選定基準

タイのM&Aを成功に導くためには、専門会計事務所をコストセンターとしてではなく、戦略的パートナーとして選定することが重要であり、タイ固有の規制と国際的な複雑な取引に対応できる能力に焦点を当てる必要があります。

戦略的パートナーとしての選定基準

専門会計事務所には、単なるタイの会計基準や法制の理解にとどまらず、国際的な税務基準(BEPS)への対応能力や、企画的な要素へ貢献できる能力が必須となります。

タイ固有の専門知識とクロスボーダー税制への対応力

必須となる専門知識は、BOI優遇の取得、維持、および当局との折衝に関する圧倒的な専門性です。特にClawbackリスクの正確な評価や、追加的優遇措置の機会特定能力が求められます。また、日本のCFC(外国子会社合算税制)税制やタイの移転価格(TP)規制を含む、両国間の税務影響を総合的に評価できる知見を持つタイの税務アドバイザーを選ぶべきです。

実務能力とレポートの品質

専門家を選定する際には、過去の財務DDや税務DDレポートのサンプルを評価することが有効です。質の高いレポートは、致命的なリスク(ディールブレーカー)と購入価格調整が必要な項目(バリュエーター)を明確に分離し、具体的な金額を算定した「エグゼクティブサマリー」を提供できることが特徴です。また、タイ語でのDD実施能力や、日本語での報告能力、価格交渉フェーズにおいて買い手の交渉優位性を高める提言を提供できる交渉サポート能力も、実務能力として重要です。

タイのM&Aにおける会計事務所に関するよくあるご質問(FAQ)

タイのM&Aにおける財務、税務、会計処理を専門家へ依頼する際によくある疑問にお答えします。会計事務所の選定やM&A後の円滑な統合手続を進めるための参考にしてください。

Q:財務DDと税務DDは誰に頼むべきですか

A:財務デューデリジェンス(FDD)と税務デューデリジェンス(TDD)は、タイ固有の論点(BOIリスクや現地会計基準の差異など)に精通した専門会計事務所に依頼すべきです。これらの専門家は、過去の帳簿検証だけでなく、バリュエーション調整項目や税務効率を最大化するストラクチャー設計(タイの税務ストラクチャー)に貢献できる戦略的知見を持つことが重要です。特にBOI優遇の維持に関わるClawbackリスクの評価は、取引の成否に直結するため、この分野に圧倒的な専門性を持つ専門家を選ぶ必要があります。

Q:タイの税務に詳しい会計事務所の見つけ方は

A:タイの税務に詳しい会計事務所を選ぶには、BOI優遇措置の取得・維持に関する実績や、クロスボーダー税制への対応経験を評価する必要があります。また、タイ語および日本語での円滑なコミュニケーション能力や、現地専門家(弁護士等)との連携能力もDDの質とスピードに直結するため、評価マトリクスに基づいて総合的に判断することが推奨されます。リスクと価格調整項目を明確に分離し金額算定できる品質を確認することも有効です。

Q:M&A後の会計・税務顧問は誰に頼むべきですか

A:M&A後の会計・税務顧問は、買収後の財務・税務統合計画(PMI)をサポートし、タックスシナジー実現に向けた組織再編まで支援できる専門家を継続的に起用することが望ましいです。特に、買収後の新体制下でのBOIコンプライアンス維持や移転価格ポリシーの再構築、利益送金にかかる源泉徴収税(WHT)の最適化と持続可能なストラクチャー設計において、継続的な戦略的アドバイスが求められます。M&Aを機に、財務(企画)的貢献能力を持つ会計事務所に切り替えることも成功の鍵です。

まとめ

タイにおけるM&A成功のためには、会計事務所を単なるコンプライアンス監査人としてではなく、致命的なリスクを回避し、将来の税務メリット(BOI優遇の維持・獲得、最適なストラクチャー設計)を最大化するための戦略的パートナーとして位置づけるべきです。財務DDにおけるQoE分析や、税務DDにおけるBOIのClawbackリスク、移転価格(TP)リスクの検証は、M&A取引の価値を決定する上で不可欠です。専門家を選定する際は、タイの会計基準や税制、日本のCFC税制、国際税務基準(BEPS)に関する知見、そして企画的な要素に貢献できる能力を総合的に評価することが重要です。

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