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タイ進出

タイ進出の最適な形態とは?現地法人・支店・駐在員事務所を比較

タイ進出

タイへの進出形態は、主に現地法人、支店、駐在員事務所の3つがあります。この記事では、各形態の特徴、設立要件、税務、BOI適用の可能性、外資規制との関連性を解説し、貴社の事業に最適な形態を選ぶための判断基準を明確にします。

タイ進出の最適な形態とは?現地法人・支店・駐在員事務所を比較

はじめに

タイへの事業進出を検討される際、どのような形態で事業を行うべきかという点は、将来的な事業展開や運用コストに大きく影響する重要な決定事項です。それぞれの形態にはメリットとデメリットがあり、貴社のビジネスモデル、事業規模、および目指す方向性によって最適な選択は異なります。タイには外国人事業法に基づく外資規制や、タイ投資委員会(BOI)による投資奨励制度など、進出形態を検討する上で理解しておくべき法制度が存在します。これらの制度も踏まえ、各形態の特徴を詳しく見ていきましょう。

タイへの主な進出形態

タイにおける主な進出形態は、以下の3つです。

・現地法人 ・支店 ・駐在員事務所

これらの形態は、それぞれ設立手続や法人格の有無、活動範囲、税務上の取扱いなどが異なります。

現地法人設立の特徴

現地法人は、タイ法に基づいて設立される独立した法人格を持つ会社です。最も一般的な進出形態であり、製造、販売、サービス提供など、タイ国内で本格的な事業活動を行う場合に適しています。外国人株主が50%以上の場合は外資企業となり、50%未満の場合は内資企業となります。外資企業は外国人事業法の規制対象となります。

メリット

事業活動の自由度が高く、タイ国内での信用を得やすい点がメリットです。タイ法人として契約締結や資産保有、従業員の雇用などを円滑に行うことができます。

デメリット

設立手続が他の形態に比べて複雑で、設立後の運営においても株主総会や取締役会の開催、会計監査、税務申告など、タイの会社法および税法に則った手続や義務が発生します。設立・維持にかかるコストも、一般的に他の形態より高くなります。

設立要件

タイの民商法典に基づき設立され、少なくとも2名以上の株主が必要です。取締役の選任やサイン権の付与・変更には株主総会の決議が必要となります。払込資本金については、原則として外国人1人あたりの就労許可証取得に200万バーツが必要です。ただし、BOIの認可を受けた企業など、一部例外的にこの要件が緩和されるケースもあります。

税務

タイの法人税率は、一般的な企業に対して20%が適用されます。中小企業(SME)に対しては、利益額に応じた軽減税率が適用されます。法人税の申告・納付は、中間申告(事業年度開始から6ヵ月経過後2ヵ月以内)と確定申告(事業年度終了後150日以内)の年2回行う必要があります。

法人所得税の計算は、会計上の収益から費用を差し引き、税務上の調整を加えた税務上の利益に対して法人税率を乗じて算出します。欠損金については、タイ税法上、発生年度から5年間繰り越すことが可能です。

BOI適用可能性と条件

現地法人は、タイの経済発展に貢献する特定の奨励業種に該当する場合、BOIの投資奨励恩典の適用を受けることができます。BOI恩典には、法人税の免除(一定期間)、機械や原材料の輸入関税の免除、外国人専門家雇用の要件緩和などが含まれます。BOIの恩典を享受するためには、一定の付加価値を生み出すこと、近代的な製造・サービス工程を用いること、環境保護システムを有することなどの条件を満たす必要があります。BOI恩典を受ける場合は、BOI事業とNon-BOI事業の会計処理を部門別に行い、法人税申告書上でも区分して申告する必要があります。

合弁会社設立の特徴

合弁会社は、外国企業(貴社)とタイ企業が共同で出資して設立する現地法人です。

メリット

タイ側のパートナーが持つ現地の商慣習や市場に関する知識、既存の販売網などを活用できる点が大きなメリットです。また、外国人事業法に基づく外資規制を回避するために、タイ側の出資比率を50%以上とすることで規制の対象外とすることも可能です。これにより、外国人単独では参入が難しい業種での事業展開が可能になります。

注意点

タイ側パートナーとの良好な関係構築と維持が不可欠です。意思決定プロセス、利益配分、経営方針などで意見の相違が生じる可能性があり、これが事業運営上の課題となる場合があります。合弁契約の締結にあたっては、当事者間の権利義務、紛争解決方法などを明確に定めることが重要です。準拠法については、紛争処理機関に応じてタイ法または日本法などを選択することが一般的です。パートナー選定は慎重に行う必要があります。

支店設立の特徴

支店は、タイ国外の親会社がタイ国内に設置する営業拠点であり、親会社と同一の法人格を持ちます。独立した法人ではありません。

メリット

現地法人に比べて設立手続が比較的簡単で、設立コストも抑えられる場合があります。親会社の信用をそのまま利用できる点もメリットと言えるでしょう。

デメリット

親会社と一体であるため、タイ国内での活動によって生じた債務や責任は親会社に直接帰属します。また、活動範囲が登記時に認可を受けた事業に制約されます。タイにおける支店の位置づけや権限が不明確になりやすく、取引先との関係で現地法人の方が信用されやすいといった実務上の課題が生じる可能性もあります。外国人事業法に基づく外資規制の対象となる場合、原則として外国人事業許可証(FBL)の取得が必要となります。

設立要件

支店の設立には、親会社がタイ国内に事業所を設置するための登記が必要です。外国人事業法上の規制業種に該当する場合、原則として外国人事業許可証(FBL)を取得する必要があります。

税務

税務上は、支店は親会社の一部として扱われます。タイ国内での活動から生じた所得は、タイの法人税の課税対象となります。税務上の所得計算や申告・納付手続は現地法人と同様に行いますが、タイ国内の活動に帰属する収益と費用を適切に区分する必要があります。

駐在員事務所設立の特徴

駐在員事務所は、親会社がタイ国内に設置する非営業拠点です。市場調査や情報収集、親会社への連絡、顧客との連絡調整など、限定的な活動のみが許可されています。

法的制限と活用方法

駐在員事務所はタイ国内で収益を上げる活動(販売やサービス提供など)を行うことが法的に制限されています。そのため、タイ市場への進出を本格的に開始する前の段階、つまり情報収集やタイ市場の調査を主目的とする場合に適しています。設立・運営コストは最も低く抑えられます。

設立要件

駐在員事務所の設置には、親会社が所定の登録を行う必要があります。2017年の省令施行により、外国人事業ライセンス(FBL)の取得は必要なくなりました。

税務

駐在員事務所はタイ国内で収益を上げないことを前提としているため、原則として法人税は課税されません。ただし、その活動が収益発生につながる営業活動と見なされる場合は、課税対象となる可能性もあるため、活動内容には十分な注意が必要です。

最適な形態選択の判断基準

どの進出形態が最適か判断するためには、以下の要素を総合的に考慮する必要があります。

・事業目的・活動内容:タイ国内で本格的な製造や販売、サービス提供を行うか、それとも市場調査や情報収集が主目的か。

・事業規模・将来計画:小規模での開始か、大規模な投資を伴うか。将来的な事業拡大を見据えているか。

・設立・運営コスト:初期投資やランニングコストをどの程度かけられるか。

・外資規制への対応:事業が外国人事業法の規制業種に該当するか。該当する場合、タイ側パートナーと組むか、FBLやBOI認可の取得を目指すか。

・BOI恩典の活用意向:法人税免税や輸入関税免税などの恩典を受けたいか。

・リスク許容度:親会社に法的責任が帰属することを許容できるか(支店の場合)。

タイ市場での本格的な事業展開、特に製造や販売を行う場合は、現地法人が最も一般的な形態です。外資規制を回避したい場合やローカル市場のノウハウを活用したい場合は合弁会社も検討できます。市場調査のみであれば駐在員事務所が低コストで開始できます。

タイ 進出 形態に関するよくあるご質問(FAQ)

Q:どの進出形態が自社のビジネスモデルに合っているか?

タイのビジネスモデルによって最適な形態は異なります。市場調査や情報収集が主であれば駐在員事務所が適しています。タイ国内で製品の販売やサービス提供を本格的に行う場合は、法的自由度が高く信用も得やすい現地法人が一般的です。親会社の既存の信用を活用しつつ、比較的簡易な手続で始めたい場合は支店が選択肢になりますが、活動範囲が限られております。タイ側パートナーと連携し、市場ノウハウや販売網を活用したい場合、あるいは外資規制業種に進出したい場合は合弁会社(現地法人)を検討すると良いでしょう。

Q:設立手続が簡単でコストを抑えられる形態は?

一般的に、設立手続の簡便さとコストの低さという観点では、駐在員事務所が最も優位です。次に手続が容易なのは支店ですが、外国人事業許可証(FBL)の取得が必要になる場合があります。現地法人の設立は他の形態に比べて手続が複雑であり、設立費用やその後の運営コスト(株主総会、会計監査など)も高くなる傾向があります。本格的な進出前の調査など初期段階でコストを抑えたい場合は、駐在員事務所が選択肢となります。

Q:将来的な事業拡大を見据えた場合、どの形態が良いか?

将来的に事業を拡大し、タイ国内で製造、販売、サービス提供など多岐にわたる活動を展開することを計画している場合は、現地法人が最も適しています。現地法人は法的に独立しており、事業活動の範囲に制約が少ないためです。駐在員事務所や支店で開始した場合でも、事業拡大に合わせて現地法人に組織変更することも可能ですが、追加の手続とコストが発生します。最初から大規模な事業を想定している場合は、現地法人の設立を検討することが合理的です。

Q:BOIの恩典を受けやすい形態は?

BOIの投資奨励恩典は、主にタイで事業を行う法人に対して付与されます。そのため、BOI恩典の申請は現地法人で行うのが一般的です。現地法人は、BOIが定める奨励業種や活動内容に広く対応できるため、多様な恩典の対象となりやすい形態と言えます。BOI恩典を活用したい場合は、現地法人の設立を検討し、事業計画と合わせてBOIへの申請を行うことが重要です。

Q:外資規制の影響を受けにくい形態は?

タイの外国人事業法では、外国資本の比率が50%以上の企業が特定の業種を営むことを規制しています。これらの規制業種に該当する場合、原則として外国人事業許可証(FBL)を取得するか、BOI認可を得る必要があります。外資規制の影響を回避する一つの方法は、タイ側パートナーとの合弁で、外国資本の出資比率を50%未満とする合弁会社(現地法人)を設立することです。

まとめ

タイへの事業進出において、現地法人、支店、駐在員事務所、合弁会社のいずれを選択するかは、事業内容、規模、コスト、法規制、将来計画などを総合的に考慮して決定することが重要です。各形態の特徴を理解し、貴社のビジネスに最適な形態を選ぶことが、タイ市場での成功の第一歩となります。

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