タイへの進出は、経済成長や地理的な優位性など多くのメリットがある一方で、法制度や運営上のリスクも伴います。この記事では、進出の理由からリスク対策まで、中小企業経営者や現地法人責任者が知るべき情報を網羅的に解説します。

はじめに
タイへの進出は、多くの日本企業にとって重要な経営判断となります。成長著しいASEANの中心に位置し、経済連携協定も多数締結していることから、市場としての魅力や生産拠点としての優位性があります。一方で、日本とは異なる法制度やビジネス慣習、運営上の課題も存在します。
この記事では、タイ進出を検討されている中小企業の経営者や、既に進出されている現地法人の日本人責任者の方々に向けて、進出のメリットとデメリット、そしてそれぞれの対策について詳細にご説明いたします。客観的な視点から、進出の価値を判断するための一助となれば幸いです。
進出のメリット
タイに進出することには、様々なメリットがあります。経済的なポテンシャルや地理的な優位性は特に注目すべき点です。
経済的・地理的な優位性
タイはASEAN地域の中心に位置しており、周辺国へのアクセスが良いという地理的な利点があります。成長市場であるASEAN諸国との間で特恵貿易協定を締結しており、関税面での優遇を受けることが可能です。また、一定の所得階層を持つ人口が増加しており、国内市場としても魅力を持っています。
投資優遇制度の活用
タイ政府は、海外からの投資を積極的に奨励しており、タイ投資委員会(BOI)による投資奨励制度は特に重要です。BOIの恩典を受けることで、法人税の一定期間免除や延長、機械設備や原材料の輸入税免除などが適用される場合があります。これにより、事業の立ち上げ期や拡大期におけるコスト負担を軽減できます。
親日的な国民性とビジネス環境
タイは全体的に親日的であると言われています。日本文化への関心も高く、ビジネスにおいても円滑なコミュニケーションを図りやすい雰囲気があります。多くの日系企業が進出しているため、ビジネスインフラやサポート体制も比較的整っていると言えるでしょう。
進出のデメリットとリスク
メリットがある一方で、タイ進出にはいくつかのデメリットやリスクも伴います。これらのリスクを事前に把握し、適切な対策を講じることが重要です。
政治・経済・法制度に関するリスク
政治情勢の変動や経済の不確実性は、ビジネス運営に影響を与える可能性があります。また、タイの法制度は日本と異なる点が多く、予期せぬ問題が発生するリスクがあります。
- 税制の変動と複雑さ: 法人税率、付加価値税(VAT)、物品税、関税、源泉徴収税など、多岐にわたる税金が存在し、制度改正も行われます。特に、関税の分類や評価については判断が難しい場合があります。税務調査への対応も必要となります。
- 為替管理と変動リスク: タイ中央銀行(BOT)が為替管理を担っており、バーツ相場の変動は輸出入ビジネスに影響を与えます。
- 労働法制と人事関連リスク: タイの労働法は労働者保護の観点が強く、解雇や給与、休暇に関する規定が日本と異なります。研修を実施しない場合の徴収金制度もあります。懲戒解雇や退職に関する手続も日本の感覚とは異なる場合があります。
- 製造物責任法(PL法): 製品の欠陥により損害が発生した場合の製造者の責任が定められています。
- 個人情報保護法(PDPA): 個人データの取扱いに関する厳格なルールがあり、違反には罰則が科されます。
- 契約・債権回収のリスク: 契約書原本の保管推奨期間や、未回収債権の回収手続など、日本と異なる実務やリスクがあります。
- 会社法務関連: 吸収合併の手続など、会社法に関連する手続も定められています。
人件費・インフラに関する課題
近年、タイの人件費は上昇傾向にあり、特に最低賃金の引き上げはコストに影響を与えます。また、地域によってはインフラの整備状況にばらつきが見られる場合もあります。
その他運営上の課題
会計処理に関しても、非上場企業向けのタイ独自の会計基準(TFRS for NPAEs)の適用や、月次での会計情報作成の優先順位の低さなど、日本とは異なる実務慣行が存在します。また、外国人・外国法人の土地取得には制限があります。さらに、優秀な人材の確保、育成、定着は多くの企業にとって共通の課題となっています。タイ特有の文化的な背景や国民性を理解し、円滑な人間関係を築くことも重要です。
日系企業が進出を成功させるためのポイント
これらのデメリットやリスクを克服し、タイでの事業を成功させるためには、いくつかの重要なポイントがあります。
事前の情報収集と計画策定
進出を決定する前に、市場調査、競合分析、法規制に関する情報収集を十分に行うことが不可欠です。特に、税務や法務に関する情報は常に最新のものを入手するように努める必要があります。収集した情報に基づき、実現可能な事業計画を慎重に策定することが成功の鍵となります。
信頼できる専門家の活用
タイの法制度や会計・税務は複雑であり、独自の実務慣行も多いため、現地の事情に精通した専門家のサポートを得ることが非常に有効です。会計士、弁護士、コンサルタントなどの専門家は、手続の支援だけでなく、潜在的なリスクの特定や対策立案においても重要な役割を果たします。
現地文化の理解と適応
タイの商習慣や従業員の価値観、コミュニケーションスタイルなどを理解し、適応する姿勢が求められます。一方的に日本のやり方を押し付けるのではなく、現地のスタッフと協力し、共に課題を解決していくマインドセットが成功につながります。人材育成においても、タイの文化を踏まえたアプローチが効果的です。
タイ進出に関するよくあるご質問(FAQ)
Q:タイに進出する本当のメリットは何ですか
タイ進出のメリットは、成長著しいASEANの中心に位置し、周辺国へのアクセスが良いことです。これにより、ASEAN経済共同体(AEC)の市場をターゲットとしたビジネス展開が有利になります。また、タイ投資委員会(BOI)による法人税免除などの投資奨励策を活用できるため、コスト面での優位性を享受できる可能性があります。親日的な国民性もビジネスを進めやすい環境を提供しています。
Q:考えられるリスクやデメリット、その対策は
タイ進出のデメリットとしては、日本と異なる法制度や労働慣習、為替変動リスクなどが挙げられます。特に労働法や税制は複雑であり、人事や会計処理で問題が生じる可能性があります。対策としては、進出前に十分な情報収集を行い、現地の法律や規制を正確に理解することが重要です。また、信頼できる現地の会計士や弁護士といった専門家と連携し、適切なアドバイスやサポートを受けることがリスク軽減につながります。
Q:なぜ多くの日本企業がタイを選ぶのですか
多くの日本企業がタイを選ぶ理由としては、上記メリットで述べた経済的・地理的な優位性に加えて、タイ政府による積極的な投資奨励策があります。また、すでに多くの日系企業が進出しており、関連するサポート体制やインフラが整っていることも進出しやすさにつながっています。親日的な国民性も、異文化でのビジネスにおける心理的なハードルを下げている要因と言えるでしょう。ASEANの製造拠点および販売拠点としての地位が確立されていることも大きな理由の一つです。
Q:中小企業がタイで成功できる可能性は
中小企業でもタイで成功できる可能性は十分にあります。ただし、大企業と比較してリソースが限られる場合が多い中小企業にとっては、事前の綿密な計画と情報収集がより一層重要になります。ニッチ市場の開拓や、タイのパートナー企業との連携など、自社の強みを活かせる戦略を立てることが成功の鍵となります。また、複雑な法務・税務・労務などについては、現地の専門家を積極的に活用することが現実的で有効な手段となります。
Q:進出する価値があるのか客観的に知りたいです
タイ進出に価値があるかどうかは、貴社の事業内容、戦略、リスク許容度などによって異なります。一般的には、ASEAN市場への足がかりとしたい場合や、BOI恩典を活用してコスト競争力を高めたい場合などに大きな価値が見込めます。一方で、人件費上昇や法制度リスク、人材確保の難しさといった課題も考慮する必要があります。これらのメリットとデメリットを総合的に比較検討し、自社の状況に照らして客観的に判断することが重要です。必要に応じて、専門家と相談し、自社にとっての進出の妥当性を評価することをお勧めいたします。
まとめ
タイ進出は、成長市場や投資優遇制度といった魅力的なメリットがありますが、法制度や労働環境、人材確保など、日本とは異なる課題やリスクも存在します。これらのメリット・デメリットを十分に理解し、事前の計画と現地の専門家との連携を通じて、リスクを最小限に抑えることが成功には不可欠となります。
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