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タイ|会計制度の基本と企業向け会計基準を解説

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タイの会計制度と企業向け会計基準について詳しく解説します。非上場企業と上場企業で適用される基準の違いや、会計担当者に必要な資格、記帳ルールなど、タイで事業を行う上で押さえておくべき会計の基礎知識をわかりやすくまとめています。

タイの会計制度の概要

タイの会計制度は、国際的な基準に合わせる形で近年大きく変化しています。かつては米国会計基準をベースとしていましたが、現在は国際会計基準(IFRS)に準拠する形で整備されています。タイの企業がどの会計基準を適用すべきかを理解することは、正確な財務報告と法令遵守のために非常に重要です。

タイ会計基準(TAS)の種類

タイ会計基準(TAS)は、企業の性質によって2つの基準に分かれています。

  1. TFRS for NPAEs(Non-Publicly Accountable Entities):非上場企業向け
  2. TFRS for PAEs(Publicly Accountable Entities):上場企業向け

これらの基準は、企業の公的説明責任の有無によって適用が分かれています。

TFRS for NPAEsとTFRS for PAEsの違い

TFRS for NPAEsとTFRS for PAEsの主な違いは以下の通りです:

  • TFRS for NPAEs:タイ独自の会計基準で、非上場企業の実務的負担を考慮して簡略化されています。
  • TFRS for PAEs:主要なIFRS基準にほぼ準拠しており、より詳細な財務報告が求められます。

多くの在タイ日系企業は、TFRS for NPAEsを適用しています。ただし、TFRS for PAEsを適用することも可能ですが、内容が多岐にわたるため、あえて採用するメリットは少ないのが現状です。

非上場企業向け会計基準:TFRS for NPAEs

TFRS for NPAEsの特徴

TFRS for NPAEsは、タイ独自の会計基準として、全28章から構成されています。この基準の主な特徴は以下の通りです:

  1. 継続企業の前提と発生主義会計をベースとしています。
  2. 非上場企業の実務的負担を考慮し、複雑な項目への言及を省いています。
  3. 税効果会計、従業員給付、デリバティブ等の複雑な項目については言及していません。

TFRS for NPAEsで作成が求められる財務諸表

TFRS for NPAEsを適用する企業は、タイの会社法に基づき、以下の財務諸表を最低年1回作成する必要があります:

  1. 財務状態計算書
  2. 損益計算書
  3. 株主持分変動計算書
  4. 財務諸表の注記

一方、以下の財務諸表は作成が義務付けられていません:

  • 包括利益計算書
  • キャッシュ・フロー計算書(TAS第7号の任意適用が可能)
  • 連結財務諸表(TAS第27号の任意適用が可能)
  • 関連当事者についての開示(TAS第24号の任意適用が可能)
  • 税効果会計(TAS第12号の任意適用が可能)
  • デリバティブ取引
  • 機能通貨

これらの任意適用可能な項目については、企業の判断で適用するかどうかを決定できます。

上場企業向け会計基準:TFRS for PAEs

TFRS for PAEsの適用対象企業

TFRS for PAEsは、公的説明責任を有する企業、つまり上場企業向けの基準です。以下の要件を満たす企業がPAEsとなります:

  1. 負債証券または株式が公開市場で取引されている企業
  2. 公開市場での金融商品発行を目的に財務諸表を証券委員会等に登記している企業
  3. 金融機関、保険会社、信託、投資信託等、特定の法令に従い公的資産に関する事業を行う企業
  4. 公開企業法に規定された公開企業
  5. その他通知された法人

TFRS for PAEsの特徴

TFRS for PAEsの主な特徴は以下の通りです:

  1. ほぼ主要なIFRS基準に準拠しています。
  2. より詳細かつ複雑な財務報告が求められます。
  3. 国際的な比較可能性が高い財務諸表を作成できます。
  4. 税効果会計、従業員給付、デリバティブ等の複雑な項目についても詳細な規定があります。

TFRS for PAEsを適用する企業は、より高度な会計知識と専門的なスキルが必要となります。そのため、多くの企業は外部の会計専門家や監査法人のサポートを受けながら財務報告を行っています。

タイの会計担当者に求められる資格

CPDライセンスの概要

タイでは、会計法上のルールにより、会計責任者には資格(CPDライセンス)が必要です。CPDライセンスは、Continuing Professional Development(継続的専門能力開発)の略で、会計専門家としての知識やスキルを継続的に更新・維持することを目的としています。

CPDライセンスホルダーは、以下の書類に署名する権限を持ちます:

  • 法人税申告書(PND50)
  • 商務省への決算報告(S.B.C 3)

社内にCPDライセンス保有者がいない場合、多くの企業は会計事務所に記帳代行を委託し、会計事務所のCPDライセンスを使用することが一般的です。

CPDライセンスの取得方法

CPDライセンスを取得するには、以下の手順を踏む必要があります:

  1. タイで会計を専攻する大学(会社規模によっては短大も可)を卒業する
  2. タイの会計士協会(FAP : Federation of Accounting Profess)に登録する
  3. 資格を取得後、毎年規定の時間数以上、会計士協会認定のセミナーを受講して資格を維持する

CPDライセンスは申請すれば自動的に付与される資格のため、特別な研修や試験は必要ありません。ただし、資格維持のための継続的な学習は必須となります。

CPDライセンス保有の確認方法

採用時や業務委託時にCPDライセンス保有の確認が必要な場合、以下の方法で確認できます:

  1. タイ会計士協会(FAP)から発行される会員IDとパスワードを使用し、オンラインで登録者の証明書を確認する
  2. 面接時に証明書の印刷物を持参してもらう
  3. 会計学科の卒業証明書を確認する(CPD登録の前提条件となるため)

これらの方法を組み合わせることで、より確実にCPDライセンス保有を確認することができます。

タイにおける会計記帳のルール

記帳言語と記帳通貨

下記は決算等の際にタイ歳入局や商務省に提出する一般的な書類で、タイ語で作成する必要があります。

  • 中間法人税申告書
  • 株主リスト
  • 期末法人税申告書
  • 監査済み財務諸表
  • 商務省提出書類(Sor.Bor.Chor.3)

タイの法人税申告は一般的には、タイバーツをベースとした会計記録・財務諸表に基づき法人税計算を行います。

会計帳簿の保存期間

タイでは、財務諸表作成の基となった会計帳簿は、税務調査に備えて5年間は保存する必要があります。この保存期間は、税務調査や監査への対応、また過去の取引の検証などに必要となるため、厳守する必要があります。なお、歳入局からの命令があった場合には、最大7年間保管する必要があります。さらに、歳入局との間で未解決の案件がある場合には、10年間またはそれ以上の期間、保管しなければなりません。

まとめ

タイの会計制度は、企業の性質に応じて適用される会計基準が異なります。非上場企業向けのTFRS for NPAEsと上場企業向けのTFRS for PAEsがあり、それぞれの特徴を理解することが重要です。また、会計担当者にはCPDライセンスが必要であり、記帳言語や保存期間などのルールも遵守する必要があります。タイでビジネスを展開する際は、これらの会計制度の基礎知識を押さえ、適切な財務報告を行うことが求められます。

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