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タイでのM&Aのメリット・デメリット|成功・失敗事例とリスク対策

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タイにおけるM&Aは、ASEAN市場への迅速な参入手段として最適です。この記事では、タイ企業をM&Aするメリットとデメリットを中小企業に特化した成功事例や失敗事例を交えて具体的に解説します。潜在的なタイでのM&Aリスクを理解し、成功へ導くための戦略を把握できます。

タイにおけるM&A市場の現状と動向

タイ王国は、東南アジアの中でも比較的早期に経済成長を遂げ、長年にわたり製造業の生産拠点として重要な位置を占めてきました。近年は、高齢化による事業承継ニーズの高まりや、ASEANの中心に位置する地政学的優位性から、クロスボーダーM&Aの最適な投資先として注目されています。

年間200件以上の取引が安定的に成立しており、製造業、消費財、物流、ITなど多岐にわたる分野で日系企業による関与が拡大しています。

タイでM&Aを行うメリット

タイへのM&Aによる進出は、新規に拠点を立ち上げる方法(グリーンフィールド投資)に比べて、多くのタイ進出のメリットを享受できます。最大の利点は、市場への迅速な参入と既存の販路やブランド力を獲得できる点です。M&Aは「時間を買う」手段として有効であり、自社でゼロから事業を創出するよりも早期に経営目標を達成できる可能性があります。

市場参入のスピード獲得と経営資源の補完

タイ市場で実績を持つ現地企業を買収することで、煩雑な設立手続や許認可取得の時間を短縮し、一気に競争優位を確立できます。さらに、M&Aにより、日本の技術力や資金力と、タイ企業が持つローカルネットワークや市場知識を融合させることで、相互補完的な経営資源の活用が可能です。これにより、グローバル競争力を高めることができます。

地政学的な優位性と成長市場へのアクセス

タイはASEAN地域の中央に位置し、陸路、空路、海路の交通網が整備されているため、周辺国への物流やビジネス展開が容易です。タイを地域ハブとすることで、中国やインドを含むASEAN全域30億人への巨大マーケット展開が可能となります。

また、タイ政府は「Thailand 4.0」やBCG経済(バイオ・循環型・グリーン経済)といった高度な国家戦略を推進しており、デジタルや再生可能エネルギーなどの成長分野への投資機会も豊富です。

優遇措置と事業承継ニーズの活用

特定の産業や地域(EECなど)への投資に対して、タイ投資委員会(BOI)による法人所得税の減免や輸入関税の免除といった優遇措置が用意されています。また、タイはASEANで最も早く高齢化が進んでおり、中小企業のオーナーの多くが後継者不在問題を抱えています。そのため、中小企業オーナーの出口戦略としてM&Aが急速に注目されており、日本の投資家にとっては良質な売り案件を獲得する好機となっています。

タイでM&Aを行うデメリットとリスク

タイにおけるクロスボーダーM&Aは、成功のために乗り越えるべきリスクやデメリットが存在します。M&Aの失敗の主な原因として、PMIの不備や取引前の準備不足が50%から70%を占めると言われています。

法規制と外資規制の複雑性

タイのM&A実務や法制度は日本と異なる点が多く、特に外国事業法(FBA)による外資規制が最大の障壁となることがあります。FBAは、外国資本が50%以上を保有する会社を「外国人」と定義し、特定の事業活動を制限または禁止しています。また、外国資本が49%未満であっても、実質的な支配権を持つとみなされるとFBA違反(ノミニー問題)となるリスクがあります。

文化的な衝突とPMIの課題

クロスボーダーM&Aでは、文化の違いが大きな障害となることが多く、統合プロセスが頓挫したり、従業員が離職したりするリスクがあります。特にタイの中小企業は、オーナー経営の影響で独自の企業文化や価値観が強い場合が多いため、買い手企業との間で摩擦が生じる可能性があります。PMIにおいては、対象国・企業の文化を深く尊重し、統合計画に組み込む姿勢が重要です。

経営者依存とリソース不足

中小企業におけるM&Aでは、営業や取引先との関係が経営者に集中しているために、M&A後に売上が落ちるリスクがあります。経営者の人脈や独自の運営スタイルが事業の中心であることが多いため、後継者や従業員への円滑な引継ぎが必須です。また、売り手・買い手双方でPMIを進める人材や資金が不足しがちな点も、中小企業特有のM&Aリスクです。

中小企業のためのタイM&A事例と戦略

中小企業のM&Aを成功に導くためには、具体的な成功事例や失敗事例から学び、メリットを最大化しデメリットを最小化する戦略を練ることが重要です。

成功事例:事業承継ニーズの活用

タイ企業のM&Aの成功事例として、日本の自動車部品メーカーがタイのサプライヤーを買収した事例が挙げられます。買収側は、日本の技術と生産ラインを結合し、タイ国内の顧客ネットワークを獲得して売上を大幅に伸ばしました。現地企業側も、日本の品質基準や研究開発能力を活用し、新商品の開発スピードが向上するという相互のシナジーを生み出しました。この成功は、高齢化に伴う事業承継ニーズを捉え、技術的な相互補完を明確にした戦略の結果と言えます。

失敗事例:文化統合の不備

一方、サービス業におけるM&Aの失敗事例では、日本企業が買収したタイ企業の人事制度や経営方針を大幅に変えようとしたことで、文化的な反発を招きました。結果として現地のキーマンが相次いで退職し、事業が停滞しました。これは、統合プロセス(PMI)において、文化的なギャップを過小評価したり、従業員との対話を怠ったりしたことが主要な原因です。特に中小企業では、少人数だからこそ一人ひとりとの対話が成功の鍵となります。

メリットを最大化しデメリットを最小化する戦略

タイでのM&Aを成功させるためには、事前の周到な準備と、クロージング後の統合プロセス管理が不可欠です。

DDの徹底と専門家の活用

デューデリジェンス(DD)の段階で、簿外債務、訴訟、許認可の有無、労働法上の問題など、潜在的なM&Aリスクを徹底的に洗い出すことが重要です。また、売り手が二重帳簿を使用しているケースなど、DDの正確性の欠如がM&A失敗の理由となることがあります。

財務、法務、人事、ITなど多岐にわたる知識が必要なため、DDの段階から現地に詳しい専門家(弁護士、会計士、コンサルタント)を活用し、負担を軽減することが成功のコツです。

PMIの計画的な実行と撤退リスクの回避

M&A実行後は、統合プロセス(PMI)を計画的に進めることが成功の核心です。DDの結果を基に統合計画を策定し、従業員が変化に戸惑わないよう、M&A実施後早めの説明が肝心です。

撤退リスクを回避するためには、クロージングがゴールではないという意識を持ち、PMIを通じてシナジー効果のモニタリングと計画の柔軟な調整を行うことが求められます。また、外部株主の排除や事業譲渡、清算といった事業再編のオプションについても理解しておくことが重要です。

タイにおけるM&Aのメリットとリスクに関するよくあるご質問(FAQ)

よく頂く質問にもとづきQ&A形式で回答します。

Q:タイでM&Aを行う最大のメリットは何か

タイでM&Aを行う最大のメリットは、成長市場への「スピード参入」と「地政学的な優位性」の獲得です。新規に法人を設立するのに比べ、M&Aにより既存の販売チャネルや顧客基盤、ブランド力を一気に手に入れ、時間を大幅に短縮できます。また、タイがASEANの中心に位置しているため、周辺国を含む巨大な市場への展開を容易にするハブ拠点として活用できます。さらに、高齢化による事業承継ニーズの高まりに伴い、良質な売り案件が増加していることもメリットです。

Q:中小企業が陥りがちな失敗パターンは

中小企業が陥りがちなタイでのM&Aの失敗事例のパターンは、主に「文化統合の失敗」と「経営者依存リスク」です。中小企業は独自の企業文化が強いため、買い手側が一方的に人事制度や経営方針を変更しようとすると、現地従業員、特にキーマンの離職を招き、事業が停滞します。また、売上の多くが旧経営者の人脈に依存している場合、引継ぎが不十分だとM&A後に売上が急減するリスクがあります。DDの段階で経営者依存度を測り、PMIで丁寧な対話と引継ぎを行うことが必須です。

Q:タイでのM&Aのリスクをどう回避すればよいか

タイにおけるM&Aリスクを回避するには、「DDの徹底」と「PMIの計画的な実行」が鍵となります。法務、財務、人事、ITなど、多岐にわたる専門知識が必要となるため、タイの規制(外国事業法など)に詳しい専門家の協力をDDの初期段階から得ることが効果的です。また、M&A契約がゴールではなく、クロージング後も統合の進捗を定期的に確認し、文化的な衝突を避けるための従業員との密な対話や計画の柔軟な調整を行うことで、リスクを最小化できます。

まとめ

タイにおけるM&Aは、ASEAN市場への迅速な参入や地政学的優位性の活用、そして高まる事業承継ニーズに対応できるなど、日本企業に多くのメリットをもたらします。一方で、外国事業法などの複雑な規制、文化的な衝突や経営者依存といったリスクも存在するため、DDの徹底や現地従業員との対話を含む計画的なPMI戦略が不可欠です。特に中小企業 事例においては、事前の準備と専門家の活用が成功を大きく左右します。

みつきタイは、新規進出から会計税務、M&Aまで一気通貫で対応できます。必要に応じて東京本社と連携し、バンコクに常駐する公認会計士が最適な解決策を提案します。会計事務所の変更のご相談も承っています。まずはお気軽に無料相談フォームよりお問い合わせください。

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