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タイM&A市場の最新動向と将来性|日本企業の進出トレンドを解説

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タイにおけるM&A市場は、経済成長の鈍化と高齢化を背景に転換期を迎えています。本記事では、最新の市場データや活発な業種、日本企業が進むべき道筋を解説し、M&Aによるタイでの事業拡大の戦略策定を支援します。

タイM&A市場の最新動向と将来性|日本企業の進出トレンドを解説

タイにおけるM&A市場の全体概況と経済成長率

タイはCOVID-19からの経済回復を背景に、M&A市場が再び活況を呈しつつあります。世界的なインフレや金利上昇の影響を受け、2024年の東南アジア全体のM&A取引額は一時的に低水準となりましたが、それでも、タイ国内の経済構造の健全さは依然としてポジティブな材料です。

タイの2024年の実質GDP成長率は、2.5%と前年の2.0%から増加しました。高止まりしている家計負債により下押しの影響がある一方で、好調なサービス消費がプラス要因となっています。

タイM&A市場の動向:件数と金額

近年のタイM&A市場の動向を見ると、年間200件以上の取引が成立しており増加傾向にあります。

取引総額においても、2024年第3四半期には国内通信大手同士の経営統合を含む大規模のメガディールが成立し、四半期の合計取引額を大幅に押し上げました。これは、タイにおけるM&A市場が大型案件によって大きく牽引されていることを示しています。

ASEAN主要国とのM&A市場の比較

東南アジア全体でM&A取引額が低調な傾向が見られた2024年において、ベトナム市場は国内大手による大型取引により取引額が前年同期比で大幅に伸びました。一方、タイ市場は2024年後半に大規模案件が相次いで成立し、取引件数・金額ともに回復を見せています。

タイは、高齢化による事業承継ニーズの高まりと、中国、インド、ASEAN全域へのハブとなる地政学的優位性から、クロスボーダーM&Aにとって最適な投資先であると言えます。この地政学的な魅力により、タイはASEANにおけるM&A市場の比較において戦略的な拠点として重要視されています。

タイM&Aで活発な業種別の動向分析

タイのM&A市場における活発な業種の動向を見ると、伝統的な製造業での企業再編に加え、食品、IT、インフラ、コンシューマー関連が注目されています。この業種ごとの変化は、タイにおける産業構造の変化を反映しています。

食品関連市場の継続的な成長

コンシューマー分野のM&A件数は増加傾向にあり、これは食品関連の取引によるものです。食品製造業、コールドチェーン、食品包装といった幅広い領域で買収ニーズが高まっています。

この背景には、タイの食品製造業の高いレベルと、観光客数の回復が挙げられます。タイは鶏肉輸出国第4位であり、水産加工食品やインスタント食品の輸出も強く、食品に係る幅広い領域に強みがあります。タイを食品製造のハブとして活用し、東南アジアの事業展開を進める戦略も想定されます。

IT・デジタル産業のポテンシャル

IT業界は近年M&Aの比率を上げており、コロナ禍でのフードデリバリーやEコマースの成長により、デジタルサービスやITサービスの領域が着実に拡大しています。屋台の零細店舗にまでQRコード決済が浸透するなど、タイのIT産業の大きなポテンシャルが感じられます。

政府は「中進国の罠」からの脱却を目指し、新興企業の株式売却益を非課税にする制度を導入するなど、官民を挙げてスタートアップ育成を推進しています。デジタル化の加速は、タイのM&A動向を牽引する重要なドライバーの一つです。

製造業における企業再編と効率化の動き

タイはかつて「東洋のデトロイト」と呼ばれ、日系自動車メーカーが高いシェアを握ってきましたが、EV化の波が押し寄せ、中国勢にリードされる状況です。製造業におけるM&A件数は増加傾向にありますが、その多くは合併の案件です。

2023年の民商法改正により吸収合併が可能となり、特に裾野の広い自動車業界の状況があまりよくない中で、長年のオペレーションにより増えた法人を減らし効率化を図る企業再編を検討する日系企業が増えています。吸収合併は、事業譲渡よりもライセンス等の承継が容易なため、再編の有力な選択肢となっています。

日本企業によるタイM&Aの最新トレンドと背景

近年、日系企業による東南アジア企業の買収件数は増加しており、2024年は前年比10%増となっています。タイは日本企業が特に多く進出している国であり、M&Aの実績も豊富です。

高齢化による事業承継ニーズの増加

タイはASEANで最も早く高齢化が進んでおり、2030年には65歳以上の人口比率が20%を超える「少子高齢化社会」に突入する見込みです。タイ経済を支える中小企業の多くは後継者不在問題を抱えており、オーナーの出口戦略としてM&Aが急速に注目されています。

これは日本の投資家にとって、競争優位性を持つ現地企業を獲得する好機となっています。創業家の高齢化を背景に日系企業へ売却され、日本市場へのルートを獲得した事例もあります。

戦略的な拠点獲得を目指す動き

タイは地理的にアジアの中心に位置し、中国、インド、ASEAN全域約30億人の巨大市場へのハブとなり得る地政学的優位性を持っています。M&Aを通じてタイ企業を拠点化することで、東南アジア全域への事業展開戦略が描けます。

具体的な事例として、化粧品大手がタイのコスメブランドを買収し東南アジア市場でのプレゼンス強化を図った例もあり、また、伊藤忠商事が保険会社に出資し金融市場へ参入した例など、タイでのM&Aは業種の枠を超えた積極的な動きが確認されています。

日本企業が留意すべき実務上の課題

日本企業がタイのM&Aを進める際の課題として、タイの法令や商習慣の違いへの対応が挙げられます。特に、法令の改正が頻繁なため常に最新情報を把握する必要があるほか、未上場企業の情報開示が不十分なケースもあります。

デューデリジェンスの際には、買収先の会社が当局提出用と内部用で二つの帳簿を使い分けているケースや、ガバナンス面の不透明さといったリスクに注意を払う必要があります。買収後のPMI(経営統合)の成功には、現地で信頼できる専門家チームを組成し、現地経営陣との協働をベースにシナジーを創出する姿勢が成功の秘訣です。

タイM&A市場に関するよくあるご質問(FAQ)

よく頂く質問をQ&A形式で解説します。

Q:タイのM&A市場は今、活発なのか

A:2024年においてタイのM&A市場は、年間の取引件数が200件を超えており、特に2024年後半には通信・メディア分野での大規模案件が市場を大きく牽引しました。世界経済の不確実性は残るものの、観光客数の回復や底堅い食品製造業などの明るい兆しが見られ、戦略的なM&Aの機会は増加しています。特にタイ企業の高齢化による事業承継ニーズが高まっており、売り案件が増加しています。

Q:どの業種でM&Aが多いのか

A:タイのM&A市場では、伝統的な製造業での企業再編(合併など)が多く見られるほか、食品、IT・デジタル、そしてコンシューマー関連が注目されています。食品分野では、タイの高い製造レベルと観光回復を背景に、製造業からコールドチェーン、食品包装まで多様な領域で買収ニーズが高まっています。また、タイ政府が育成に力を入れているIT・デジタル分野も成長性が高く、Eコマースやデジタルサービス関連の案件が増加傾向にあります。

Q:日本企業による買収は増えているのか

A:日本企業による東南アジアでのM&Aは近年勢いを増しています。タイは進出実績も豊富で、クロスボーダーM&Aの最適な候補地とされています。タイの高齢化による事業承継ニーズが増加しているため、日本企業は現地パートナーシップや戦略的拠点獲得を目的とした買収を積極的に進めています。特に金融、消費財、デジタル決済などの分野で日本企業による大型出資事例が確認されています。

まとめ

タイにおけるM&A市場は、経済環境の変動の中で、大規模な企業再編や食品・IT分野での成長機会が顕在化しています。高齢化に伴う事業承継ニーズは、日本企業にとって優良な現地企業を獲得する大きなチャンスであり、タイの地政学的優位性を活かしたASEAN全域へのハブ戦略が有効です。成功のためには、現地の規制や商習慣の理解、専門家チームの組成、そしてPMIでの協働の姿勢が不可欠です。

みつきタイは、新規進出から会計税務、M&Aまで一気通貫で対応できます。必要に応じて日本本社と連携し、バンコクに常駐する公認会計士が最適な解決策を提案します。会計事務所の変更のご相談も承っています。まずはお気軽に無料相談フォームよりお問い合わせください。

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